鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ブランド品には持主のストーリーがある

[要旨]

元Jリーガーの嵜本さんは、ブランド品買取を始めたとき、買取提示価格に納得しない顧客が多いことから、顧客に歩み寄った価格で買取る戦術を実践したそうです。その結果、リピート客が増加し、その戦術が正解だったことが分かりました。すなわち、この事例のように、正解は事前には分からないことから、仮説→実践→検証を素早く回すことが、事業を迅速に成功させる鍵になると言えます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、バリュエンスホールディングス社長の、嵜本晋輔さんのご著書、「戦力外Jリーガー経営で勝ちにいく-新たな未来を切り拓く『前向きな撤退』の力」を読んで、私が気づいがことについて述べたいと思います。前回は、嵜本さんが洋菓子店を出店したときは、出足が好調であったものの、やがてライバル店も類似する商品を販売するようになり、その成功は長続きしなかったという経験から、成功だけを目指すと、成功した時点で事業の発展が止まってしまうので、継続して成長することを目指すことが大切ということを学んだということを説明しました。

その後、嵜本さんは、祖業のリユース買い取りから撤退し、ブランド品買い取りにシフトしていきました。そして、ブランド品は、リユース品と違って、買取の依頼者が、買取提示額に納得してもらえないことが多かったので、その理由について嵜本さんが探っていった結果、ブランド品には、持ち主にとってのストーリーがあるということに気づいたそうです。「例えば、青春時代をともに過ごした腕時計、どうしても欲しくてアルバイト代を貯めて購入したバッグ、海外旅行先で思い切って買ったジュエリーなどには、思い入れも思い出も込められていて当然でしょう。

そうした思い出の品を手放すのですから、『この金額なら手放してもよい』、『この金額なら売らずに手元に置いておきたい』といった基準があるのは当たり前のことです。そうしたお客さまの立場にたつなら、納得できる金額を提示してもらわなくては話にならない。お客さまの考えの深層心理が理解できたように思えた私は、いったん、お客さまの立場を優先させることにしました。買い取りの目的が、目の前にある腕時計やバック、ジュエリーを、『1円でも安く仕入れよう』とすることだけなら、私のこの決断は誤りです。しかし、買い取りは、1度では終わらないのです。

『あの店は、あの人は、私の意を汲んで高く買ってくれた』と思ってくれたお客さまは、必ずや私たちを信頼してくれるようになります。そして、次に買い取って欲しいものが出てきたときには、真っ先に指名をしてくれます。すなわち、リピーターになってくれるのです。そのような仮説を立てた私は(中略)、お客さまが納得する価格を提示するという試みを始めました。もし、この仮説が間違っていたならば、また素早く軌道修正すればよいだけです。そして、その仮説は的中しました」(131ページ)

この嵜本さんの仮説は、顧客生涯価値(Life Time Value、LTV)を高めるという戦術を実現するものです。とはいえ、こうを断言できるのは、嵜本さんの仮説が正解だったという「答え」を分かっているからです。結果が出ない段階では、仮説に過ぎず、断言できません。むしろ、結果は不正解の確率の方が高いかもしれません。だからこそ、少ない正解を引き当てるめには、仮説→実践→検証を素早く回すことが重要になります。

ここまでのことは、ほとんどの方がご理解されると思うのですが、私が中小企業の起業のお手伝いをしてきた経験から感じることは、嵜本さんのように、仮説→実践→検証を行う会社は少ないと感じています。というのは、多くの会社は、起業する時点で、経営者の方によって、販売する商品は決められているようです。これは、プロダクトアウトの戦術ということもできなくはないですが、この戦術は、競争率が高くない商品であれば失敗してしまうし、実際にもそういう例が多いようです。

また、売る商品が決まっている会社ですから、当然、仮説→実践→検証を行う体制を整えてずに事業活動をしており、失敗しそうになって商品の改善をしようとしても、それを実践することも困難な状態になっています。したがって、事業で扱う商品は固定的にしないこと、また、正解を早く見つけるために、仮説→実践→検証を素早く回す体制を整えておくことの方が、VUCAの時代は競争力が高まるということを、嵜本さんの指摘を読んで、改めて感じました。

2023/7/4 No.2393