鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『成長する機会』を奪ってはならない

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、「競争があると職場が殺伐とする」という指摘があるものの、それは建前であり、多くの人は常に他人を比較し、また、自分自身も他人から比較されているわけですから、それは現実的ではないということです。そこで、例えば、営業担当であれば成績を公表して透明性を高めることで、頑張っている人を適切に評価できるようにし、成長したい人から成長する機会を奪うことがないようにしなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、経営者は、成長したいと望む部下に対しては、少し高めの目標を常に設定することが望ましく、なぜなら、高すぎる目標を与えると、実質的には目標を未達成することを認めることになるからであり、1つ1つ階段をあがっていくような目標設定をすることで、着実に部下は能力を高めていくことができるようになるということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、頑張っている人の努力に報いるためにも、経営者は比べるための仕組みを整えなければならないということについて述べておられます。「『競争があると、職場が殺伐とする』よく言われることです。しかし、果たして本当でしょうか。人間は、つねに物事を比較して価値を認識します。たとえば、どこかでラーメンを食べておいしいなと思うときは、いままで食べたラーメンと比較して今回のラーメンの味を認識します。

誰か人を好きになるときも、これまで会ってきた人たちと比較して、その人の価値を認識しています。つねに人は比較し、比較されている生き物です。その前提に立って、仕組みをつくったほうがいい。心の中で比ベでいるのに、『表向きは競争をさせない』というほうが事実に反します。人の上に立つ人は、人と比ベるための『仕組み』を整えないといけません。

たとえば、営業であれば売上の数字をオープンにします。それはもちろん、それぞれが自分の相対的な位置を知るためです。それにより『当たり前』の基準があがります。事実をハッキリと直視することによって、危機感が出ます。『人と比べても仕方ない』、『私は人と比ベることなんてしない』と、誰もが口では言います。しかし、気にならないわけがありません。その前提に立ち、人と比ベないように『隠すような忖度』はしないほうがいいのです。

そうしてしまうと、頑張っている人が頑張らなくなります。逆に、頑張っていない人は、安心材料を得て、危機感がなくなります。いかなるときも、『成長したい人』を基準に判断しましょう。『成長する機会』を奪わないことです。『人と比べたくない』という下からの反発に負けると、その判断軸がプレます。人の上に立つ人は、ここまでの『責任と権限』と『危機感』の考え方を押さえ、つねに『競争環境』を整えるようにしましょう」(159ページ)

安藤さんは、「競争があると、職場が殺伐とすると言われることがある」とご指摘しておられますが、私も競争が誤解されていると感じることがあります。現在の日本は、市場経済主義、すなわち、競争によって繁栄された面が大きいと言えます。しかし、その一方で、勝負に勝つためにはどんなことをしても許されるという価値観を持つ人もいるため、ルールを無視して、なりふり構わずに行動する人もいます。競争にネガティブなイメージを持っている人は、そういった人の行動を見ているからでしょう。

しかし、そのような競争は本当の競争とはいえません。だからこそ、安藤さんがご指摘しておられるように、透明性を高めて健全な競争が行われるようにすることが、経営者に求められていると言えるのでしょう。また、「競争はよくない」と口にする人の中には、単に、自分に負荷がかかることを避けたいと考えている人もいるいると考えられます。そう考えることの良し悪しは置いておいて、少なくともビジネスパーソンは健全な競争の中に身を置くことなのであって、そのような価値観を持つ人は、基本的にビジネスに携わることは好ましくありません。

そうでなければ、懸命に自分を成長さえようとしている人たちにとっての障害になるからです。繰り返しになりますが、会社はどういう人を望むのか、どういうことをすれば評価されるのかという会社の価値観を明確にし、そして、それに挑んだ従業員の方たちの努力の結果に対して透明性の高い評価をすることは、事業の競争力を高めるために重要な要素となっていると言えます。

2025/1/4 No.2943