鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

部下の上司への評価は感想にすぎない

[要旨]

株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、部下が上司を評価する360度評価は行うべきではなく、なぜなら、目標を決める権限のない人が、責任ある立場の人間を評価することは矛盾しており、また、部下からの評価は無責任な感想でしかないからだということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「リーダーの仮面-『いちプレーヤー』から『マネジャー』に頭を切り替える思考法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、従業員の評価は結果だけで行わなければならず、なぜなら、例えば、多くの残業をしている従業員が評価されることになれば、結果がでなくても残業をすれば評価されると考えてしまい、結果を出すことに注力しなくなってしまうからということについて説明しました。

これに続いて、安藤さんは、360度評価は行うべきではないということについて述べておられます。「部下が上司を評価する『360度評価』という試みがあります。もちろん私は、このやり方には反対です。『評価』とは本来、『目標を達成できているかどうかを判断する行為』です。目標を決める権限のない人が、責任ある立場の人間を『評価』することは矛盾しています。評価は『責任』がある人にしかできません。部下からの評価は、すベて『無責任な感想』です。『最近、上司の顔を見ていると疲れているようだな、頑張っているんだろうな』そんな印象でしか評価できないでしょう。どうしても部下は『好き嫌い』で判断するしかできないのです。

360度評価という発想が出てくる背景には、経営層が自らのマネジメントに自信がなく、中間管理職を信用していないことが原因です。すでに会社に360度評価が導入されているリーダーはかわいそうですが、その中でやっていくしかありません。たとえ、360度評価による自分の評価が悪くなったとしても、チームの結果を出すことだけに集中することをおすすめします。プレないための軸、つまり仮面が必要です。部下からの評価を気にして、甘く接してしまう語惑と戦うようにしてください」(227ページ)

360度評価、すなわち、上司だけでなく部下からの評価も受けることは、私は、ある程度の意義があると思います。というのは、部下が上司を評価することには、長所と短所があり、短所は、安藤さんがご指摘しておられるように、好き嫌いでしか判断できないという点です。長所は、上司の目が届かない面について部下が評価したり、上司が部下からも評価されるようになろうという動機づけになるという面があると思います。

ただし、人が人を評価することそのものに限界があるので、私としては、多面的な評価で、客観性を高めようとする試みについては、意義があると思います。その一方で、「目標を決める権限のない人が、責任ある立場の人間を評価することは矛盾している」という安藤さんのご指摘もその通りだと思います。すなわち、定量的な目標については、安藤さんのご指摘のように、上司が責任をもって評価しなければならないでしょう。

また、安藤さんは、「360度評価という発想が出てくる背景には、経営層が自らのマネジメントに自信がなく、中間管理職を信用していないことが原因」とも述べておられますが、これを逆に言えば、中間管理職のマネジメントスキルを高めることによって、経営者は中間管理職を信用できるようになるということでしょう。私は、基本的に、経営者や中間管理職のマネジメントスキルが高い組織は業績も高くなると考えています。

これまでの経営者は、業績を高めるためには、事業活動にどれくらい注力できるかで決まると考える傾向にあると思いますが、そうであれば、組織として足並みがそろった活動ができるようにするべきであり、だからこそ経営者や中間管理職のマネジメントスキルが鍵になります。そこで、経営者は、中間管理職の本来の役割である管理スキルを高めれば、業績も高くなるし、安藤さんが懸念するようなことも起きなくなると、私は考えています。

2025/7/11 No.3131