[要旨]
株式会社識学の社長の安藤広大さんによれば、組織には、個人のスキルが囲い込まれていて、答えがその人の頭の中に隠れている「暗黙知」があり、それを見えるように仕組み化し、マニュアルを整備することで、新入社員や中途社員が、すぐに実践的な活動ができるようになるということです。
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今回も、前回に引き続き、株式会社識学の社長の安藤広大さんのご著書、「とにかく仕組み化-人の上に立ち続けるための思考法」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、安藤さんによれば、「競争があると職場が殺伐とする」という指摘があるものの、それは建前であり、多くの人は常に他人を比較し、また、自分自身も他人から比較されているわけですから、それは現実的ではないので、例えば、営業担当であれば成績を公表して透明性を高めることで、頑張っている人を適切に評価できるようにし、成長したい人から成長する機会を奪うことがないようにしなければならないということについて説明しました。
これに続いて、安藤さんは、事業活動で得ることができた暗黙知を、マニュアル作成によって形式知にすることが大切であるということについて述べておられます。「『あの人が羨ましい』、『あの人に負けたくない』ということを隠さないといけない世の中です。しかし、人の成長を考えたとき、それらの感情があることを前提にして組織をつくったほうが、はるかに結果が出ます。『あの人ができた、だったら、自分もできるはず』そう考えられるかどうかです。
『とリあえずやってみる、まずはできる人から学ぼう』そういうシンプルな素直さが人を成長させます。人の上に立つ人は、そのための『仕組み』を整える必要があります。組織には、『暗黙知』」というものがあります。(中略)個人のスキルが囲い込まれていて、答えがその人の頭の中に隠れているような状況のことです。それを見えるように、仕組み化します。仕事ができているプレーヤーから話を聞き、『成功パターン』をつくります。いわゆる『マニュアル』です。
『最初に、どんな仮説を立てたのか』、『その上で、具体的に、どのような行動をしたのか』、『以前にどんな失敗があり、どんな改善をしたのか』、『この経験を踏まえて、どの方法に再現性があると思うか』などの仕事の流れを聞いたうえで、誰もが実行できるようにします。それを誰もがアクセスできるように、情報共有します。そして、新入社員や中途社員が、すぐに実践できるようにします。最初から自己流でやらせでしまうと、ヘンなクセがつきます。まずは基本が何なのかを徹底的に学んだほうが、成長は早まります。
これは、ある企業の例です。そこでは、転職してくる人がまったく成長しないという問題を抱えていました。なぜなら、期待をしすぎていたからです。『ウチのような会社に来でくれて嬉しい』、『好きなように働いてくれていいから』というように、お客さま扱いをしていたのです。新しい会社のルールに従えない人は、その転職が不幸になります。『ウチは全員がこういうルールで、マニュアルもあります』、『あなたにも同じ基準で評価を受けてもらいます』と、人の上に立つ人が、明文化して伝えるのです。
すると、『前の会社では違いました』、『それは間違っていると思います』などと反発してくるかもしれません。それに対しては、堂々と言い返すベきです。この最初のコミュニケーションがブレてしまうと、後々、必ずトラプルを起こします。特別扱いをしでしまうと、『言ったもの勝ち』の状況を生んでしまいます。人を見るのではく、仕組みを見るようにしてください。そうすることで、責任のある判断ができるはずです」(162ページ)
知識経営の生みの親と言われている、経営学者の野中郁次郎さんによれば、暗黙知とは、「言語化し難い知識、経験や五感から得られる知識」を指します。例えば、スキーの滑り方は、板の上に乗って滑るという説明はできますが、スキーで滑ったことがない人が、その説明をきいただけでは実際には滑ることができないことが多いと思います。スキーの板の上に乗ってバランスを取りながら滑るノウハウは、実際に、板に乗ってからでないと得ることはできず、また、それを言葉にして伝えることは難しいと言えます。これが知識経営で考えられている基本的な暗黙知です。
ただ、安藤さんはそこまで厳格に暗黙知ということばを使っていないようですが、会社の中には、明文化されていない知識がたくさんあることには間違いありません。業歴の長い会社は、必ずしも優れているとは限りませんが、業歴に比例して、事業活動から得ることができたノウハウが多く蓄積されています。最近、M&Aが活発になってきているのは、新たな会社を設立して事業に進出するよりも、業歴とともに多くのノウハウを持っている既存の会社の方が、有利に事業を展開でると判断されていると考えられます。
したがって、日常の事業活動で得ることができたノウハウは、マニュアルなどで明文化し蓄積することは、後から参入してきた会社と差別化を図ることができます。そして、安藤さんも、「マニュアルを整備しておくことで、新入社員や中途社員が、すぐに実践できるようになる」とご指摘しておられるように、従業員が足並みを揃えて組織的な活動ができるようになります。ここでは具体的なマニュアルの整備方法についての説明は割愛しますが、「暗黙知」を蓄積するという観点でマニュアルを整備していくことは、競争力を高めることになるでしょう。
2025/1/5 No.2944