銀行の融資に関して、実質同一体という
用語があります。
これは、複数の融資先を1社をみなして
融資を管理することです。
例えば、社長Aが会社Bと会社Cの代表
取締役に就任していて、かつ、両社とも
社長Aがすべての株式を所有している
とき、銀行からみて会社Bと会社Cは
実質同一体であり、両社に対する融資は
個別に管理せず、1つの会社に対する
融資として管理します。
(ただし、もちろん、融資契約は、
それぞれの会社で行います)
このような管理をする理由は、もし、
会社Bの資金繰が悪化した場合、
会社Cも大きく影響を受ける可能性が
高いからです。
具体的には、会社Bの資金繰が悪化
すると、会社Cが会社Bに対して
資金の融通をする可能性が高いから
です。
また、両者の決算期が異なる場合、
会社Bの業績悪化したときに、
会社Cと架空の取引を行う方法などで
会社Bのみかけ上の業績をよくする
ということも行われかねません。
そこで、銀行は、実質同一体の全体の
資金繰や業績を見ながら融資審査を
行います。
ところで、実質同一体の考え方は、
連結決算の対象である、連結企業
集団とにています。
連結企業集団は、親会社と子会社の
ような支配従属関係にある会社が、
法律上は個別の会社であっても、
事業活動は親会社に従属している状態で
行われていることから、1社ずつの財務
報告を見るよりも、連結企業集団を
1社の会社とみなした場合の財務報告を
見ることが適切であることから、
それぞれ個別の会社に財務報告を基に、
連結企業集団同士の間での資金のやり
取りや利益を調整して、連結財務諸表が
作成されます。
しかし、実質同一体は、連結企業集団
よりも広い概念です。
前述の、会社Bに、同社が100%
出資している会社Dがあった場合、
会社B・C・Dは実質同一体ですが、
会社Bと会社Dは、連結企業集団に
該当するものの、会社Bと会社Cは
連結企業集団ではありません。
また、社長Aが住宅ローンを利用して
いる場合、社長Aと会社B・C・Dは
実質同一体と管理されます。
これは、もし、会社B・C・Dの
業績が悪化した場合、社長Aの住宅
ローンの返済が懸念されるからです。
以上のことから、よく、銀行から受け
られる融資額を増やそうとして、会社を
新たに設立しようとすることを考える
方がいらっしゃいますが、実質同一体と
いう管理方法によって、それは不可能と
いうことになります。
なお、実質同一体という考え方は、
明確な線引きが難しい場合もあります。
社長Eと社長Fは兄弟で、それぞれ、
会社Gと会社Hの代表取締役に就任
しているとします。
そして、社長Eは弟の経営する会社Hの
取締役に就任しているとします。
ただし、会社Gと会社Hはまったく業種が
異なり、かつ、両者間での取引や資金の
融通も行われていないとします。
この場合、会社Gの社長が会社Hの役員
にも就任しているので、両者は実質
同一体と考えることもできますが、
会社Hの取締役に、たまたま会社Gの
社長が就任しているだけで、両者は
お互いに依存する関係にない会社と見る
こともできます。
これは、銀行が実態に即して判断する
ことになります。
結論は、銀行は実態に即して融資審査を
しているので、銀行からの評価を高める
目的で複数の会社を設立してもあまり
効果がないということです。