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ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんによれば、事業活動が順調な時は、その勢いを維持し、変更はしない方がよいと考えてしまいがちですが、その場合、経営環境の変化に対応しないことになってしまう可能性があります。そこで、事業が順調であっても、改善や革新を行うことが大切です。
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今回も、前回に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人元社長の新将命さんのご著書、「伝説のプロ経営者が教える30歳からのリーダーの教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、新さんによれば、事業活動は社外にいる顧客に目を向けなければなりませんが、会社組織では、自分の評価を気にするあまり、従業員の視線が本社や上司に向いてしまいがちになるので、経営者は、上役ばかりを見ている「ヒラメ社員」を減らすような働きかけを行わなければならないということについて説明しました。
これに続いて、新さんは、快適ゾーンに留まることを避け、常に変化を続けなければならないということについて述べておられます。「うまくいっているときは、チームを変えるなというのは、団体スポーツ競技で鉄則のように言われることである。順調に進んでいるときに、メンバーを変えたり、やり方を変えることはリスクが大きい。下手をすると、せっかくの“Momentum”(勢い・はずみ)を悪い方へ変えてしまう。しかし、物事が順調に運んでいるときであっても、あえて変えるのが改善であり、革新である。
うまくいっているのに、なぜ、わざわざ変える必要があるのか。いまのままでよいのではないか……。改善を要求された現場からは、こうした苦情が上がってくるものだ。こうした苦情は一面で正しい意見でもある。改善が企業文化として根付いているトヨタは、新型コロナ禍で、世界が不況に覆われた中にあって、いち早く業績を回復させた。改善・革新とは、そこにいれば安泰なのにという、“Comfort Zone”(快適ゾーン)から人を押し出す効果がある。
自ら変化を創り続けることで、快適ゾーンに留まり続けることを許さない。快適ゾーンから出ざるを得ない状況をつくり、常に変化に身を晒すことによって、高い変化対応力を身に付けることができる。改善を続けることによって、組織も人も快適ゾーンから飛び出し、外気に触れることで鍛えられる。快適ゾーンから脱却することは、いわば緊急事態ともいえるウィルスの襲来に対しても、耐えられる『免疫力』を持つための特効薬ともいえる」(142ページ)
新さんがご指摘しておられるように、快適ゾーンに留まろうとしてはいけないということについては、多くの方がご理解されると思います。その一方で、「当社は、長年かけて頑張ってきた結果、ようやく成功したのに、そこから、なぜ、変えなければならないのか」という考えも、人情としては理解できなくもありません。しかし、この点について、私は、セブン&アイ・ホールディングの元会長の鈴木敏文さんの商品開発に関する考え方を思い出します。
「金の食パンは、際だっておいしい。ただ、おいしいものにはもう1つ裏の意味があって、それは“飽きる”ということです。おいしいものほど続けて食べれば飽きる。だから、飽きられる前により味をよくしたものを投入する。顧客は味が変わったことに気づかないかもしません。飽きずにおいしいと感じてもらえればそれでいいのです」すなわち、ヒット商品は、しばらくすると陳腐化してしまい、価値が下がってしまうということです。そこで、継続して顧客から支持を得るためには、常に、商品を改善しなければなりません。
ただ、商品を製造したり販売している側は、ヒット商品を出してしまうと慢心してしまうときがあります。でも、鈴木さんがご指摘しておられるように、商品そのものに変わりはなくても、顧客からの評価は下がってしまうので、ビジネスにおいては、停滞は後退と同じことになります。この点は、ビジネスパーソンにとって厳しい側面であると言えますが、改善や革新は失敗したときだけでなく、成功したときであっても行わなければならないようです。
2024/10/25 No.2872