[要旨]
日本の会社には、株主と対立する経営者がいることは珍しくなく、そのような会社では、経営者は、必ずしも株主の利益を最大化しているとは限りません。そのようになってしまう原因は、役員が従業員から昇格していることが一因ですが、そうであっても、役員が株主の利益を損なうようなことは避けるべきでしょう。
[本文]
ソフトウェア・エンジニアの中島聡さんのメールマガジンを読みました。要旨は、経営再建のために会社の3分割を発表した東芝は、経営陣と株主が対立しているが、経営者は株主から委任を受けている立場なので、株主の意図に忠実であるべきだ。そして、株主と対立している経営者は、自分の都合を優先し、株主の利益を最大化していないこともある。
そこで、いわゆる「ハゲタカ・ファンド」が株主になれば、会社の運営が適正化されるので、歪みが是正される、というものです。私も、中島さんのお考えは正しいと思います。東芝に限らず、日本では、経営者と株主が対立することが珍しくないので、その点は本来の望ましい関係にあるべきだと思います。その一方で、なぜ、経営者が株主と対立することになるのかということに疑問を持つ方もいると思います。
その理由は、徐々に減りつつあるものの、日本では、従業員が役員に昇格する会社が多いということです。よくも悪くも、長い間、従業員として勤務していると、それにつれてしがらみも増えてくるので、そのような人が役員になれば、株主以外の人たちにも縛られることになるのでしょう。ただ、かつては、日本の会社の多くは、従業員が役員に昇格することがほとんどであり、それが、会社の事業にとってよい方向に機能していたということも事実だと思います。
というのは、日本の会社の従業員は、会社への帰属意識が高い人が多いので、従業員から昇格した人が役員になっていると、両者の関係が良好になり、業績の向上に貢献していたと言えます。そして、それは、株主から見ても、望ましい状況だったのでしょう。しかし、現在は、役員と従業員の関係が、負の面で現れるようになりつつあると言えるのでしょう。したがって、私は、役員と従業員の関係が蜜月であることが問題というよりも、株主の意図に沿うものかどうかということが問われているのではないかと思います。
そこで、東芝のように、経営者の決定が、必ずしも株主の利益にならない場合、中島さんのご指摘の通り、ハゲタカ・ファンドに適切なガバナンスをしてもらうことが望まれるのでしょう。私は、ハゲタカ・ファンドに対して否定的ではありませんが、可能な限り、自社で自浄作用を発揮してくれる会社が増えて欲しいと考えています。その方が、経営者と株主の荒っぽい対立が減るからです。
2021/12/8 No.1820