鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

リーダーシップより調整能力

[要旨]

経営者は、リーダーシップを発揮し、従業員を事業活動の目的を達成させる役割があると考えられがちですが、21世紀のいまは、顧客、従業員、仕入先の会社といった、利害関係者同士で対立する利害をじょうずに調整する役割の重要性が高まっています。


[本文]

最近、私のブログの、バーナードの理論(有効性、能率、誘因と貢献)に関する記事のアクセス数が増えています。実は、この理論は、とても大切なのですが、あまり注目されて来なかったので、私としては、とてもうれしく思っています。私が経営コンサルタントになろうとした理由は、このバーナードの理論を、多くの経営者の方に知ってもらい、より効率的な経営をしてもらいたいと思ったかったからです。

というのも、多く人(経営者を含む)は、経営者には、強力なリーダーシップを発揮して従業員を牽引し、事業の目的を達成するための活動を行う役割があると考えていると思います。確かに、経営者には、リーダーシップが求められていることに間違いはありません。しかし、21世紀のいまは、それよりも、「調整する能力」の方に、重要性の比重が移りつつあると、私は感じています。

むしろ、リーダーシップがあるにもかかわらず、「調整する能力」が不足するため、誤った方向にリーダーシップを発揮し、不幸な結果に至る会社もあります。では、「調整する能力」の「調整」とはどういうことかというと、前述した、私のブログに書かれているので、お読みいただきたいと思います。

このことは、まだ、あまり理解が広がっていないようなのですが、事業活動にはさまざまな立場の利害関係者(ステークホルダー)が参加しており、さらに、利害関係者同士で、利害が対立することは珍しくありません。例えば、顧客にとっては、製品の価格が安い方が望ましいわけですが、その要望を実現しようとすることは、高い給料を望む従業員、高い販売代金の支払いを望む原材料などの仕入先の会社、多額の利益を望む、株主、銀行の利害と対立します。そこで、どこで折り合いをつけるか、すなわち、調整するかが経営者の役割であり、その巧拙が業績になって表れます。

ここまでの内容は抽象的なので、別な角度から説明すると、顧客から製品価格の値下げの要請があったとき、経営者がそれに抗うことができず、従業員に長時間労働をさせたり、不採算な仕事を続けて事業を赤字にさせてしまったりすることがあります。だからといって、顧客からの値下げ要請にまったく応じない訳にもいかないでしょうから、どこかで折り合いをつけなければなりません。このように、事業運営では、すべての利害関係者に、100%満足してもらえることは、ほぼ、ありません。

では、どうすればよいのかというと、それぞれの利害関係者の満足度の合計が、最大になるようにすることが望ましいと、私は考えています。話を単純化するために、事業の利害関係者は、顧客、仕入れ相手の会社、従業員、銀行の4者であるとします。前述の例のように、顧客の要望を優先してしまったとき、それぞれの利害関係者の満足度を、レーダーチャートにすると、顧客だけの満足度が高く、いびつな形になります。

しかし、もし、4者の満足度が同じくらいであれば、レーダーチャートで描かれた図形は正方形になります。この図形が正方形の状態は、それぞれの満足度は100点ではありませんが、グラフで描かれた図形の面積が最大になります。このような状態、すなわち、それぞれの利害関係者の満足度の合計が最大であれば、満足度の大きさがバラバラの状態よりも、事業は長く継続します。これが、私の考える、「調整」のイメージです。

そして、経営者は、リーダーでもあり、まとめ役でもありますが、これからはまとめ役の側面が大切になっていくでしょう。また、少し話が飛躍しますが、この調整する活動が、狭い意味での「経営」であると、私は考えています。前述のバーナードの理論が書かれている、彼の主著のタイトルは、「経営者の役割」ですが、まさに、「調整」こそ経営者の役割ということです。

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