鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

強気の折衝は得策ではない

私が銀行勤務時に渉外係で融資先を

訪問していたときのことですが、

半数以上の融資先の経営者からは

いつも叱られていました。


叱られる内容は、礼儀作法や、その

会社のローカルルールを守ること、

銀行の融資姿勢や金利の高さなど、

様々でした。


確かに、私も発展途上の人間で

あった(いまでもそうですが)ので、

叱られることがあっても当然なの

ですが、それにしても叱られ過ぎ

ではないかと思うことはよくあり

ました。


はっきり言えば、理不尽なことで

叱られることもありました。


要は、銀行職員はいつも叱られる

対象であったということです。


では、なぜ一方的なのかというと、

融資交渉でイニシアティブをとり

たいという意図によるものでしょう。


もちろん、融資を受ける側が何でも

銀行の意向に従う必要はなく、主張

すべきことは主張して構わないの

ですが、中には、聞かれたくない

ことを聞かれないようにするという

ことも目的としていることもあり

ました。


例えば、前々期は黒字決算であった

会社が、前期は赤字を計上した上に、

融資の増額の依頼があったとします。


そういったときに、「前期は赤字と

なった原因をどのように分析して

いますか」などと社長に訊くと、

極端な場合、「うちの会社に融資を

したくないのか?」と、ちょっと

脅し気味に返答されることもあり

ました。


すべての会社がこのような会社では

ありませんが、どちらかというと、

丁重に対応を求められる会社の方が

多かったと記憶しています。


ここで、「融資を受ける側がそんなに

横柄なら、融資を断ればよいのでは?」

とお考えになる方も多いと思います。


しかし、それはなかなかできません

でした。


その理由のひとつは、競合する銀行が

あったからです。


多少は無理を聞き入れなければ、他の

銀行に融資シェアを奪われるという

状況がありました。


もうひとつは、私が勤務していた地方

銀行は、明確に融資を断る客観的な

状況がなければ、なかなか融資を断り

にくい状況にありました。


すなわち、業況がかなり悪化したと

いうような状況でない限り、その

会社と融資取引を解消すると、

「●●銀行は、○○会社を見捨てた」

というような風評が営業地域に

広がってしまいかねないので、

単純に、「あの会社は気に入らない」

という理由だけでは融資を断ることは

できませんでした。


それでも、過剰な要求をする会社は

融資を断ることはありました。


その際も、単に「融資はできません」

という説明ではなく、十分に時間を

かけて説明をして断るという手順は

欠かせんませんでした。


ここまでの文章では、融資を受ける

側の会社の社長はひどい人が多い

という内容になっていますが、

必ずしもそうとは限りません。


ひとつは、融資先の経営者の方も、

当然のことながら、多くの顧客に頭を

下げて売上を獲ってきています。


ですから、自社に来る銀行の渉外係の

気持ちは十分に理解しているでしょう。


そして、銀行に対して金利を支払って

いる自社は、銀行から見れば顧客で

あるわけですから、銀行に対しては、

きちんと言いたいことは言おうとする

気持ちになるでしょう。


そして、自社担当の渉外係が、自分

より、年下の場合が多い訳ですから、

やはり粗が見えれば指摘したくも

なるでしょう。


そして、会社経営者が最も恐れる

ことは、「貴社から申し込まれた融資は

お受けできません」と銀行から言われる

ことです。


そのようなことを言われないようにする

ために、銀行には強気で折衝に臨みたい

という気持ちになるでしょう。


ここまで、私の経験を書きましたが、

結論は、これからは、単に強気だけで

銀行に融資折衝をすることは得策では

なくなりつつあるということです。


確かに、いい意味で強気になることは

大切ですが、単に表面を取り繕う

だけの強気では、銀行は融資を引き

受けなくなるということです。


その背景としては、銀行の数が、

合併や統合によって減ってきている

一方で、銀行職員1人あたりの担当

先数が増えていることから、融資

交渉のための時間はあまり割いて

もらえなくなりつつあります。


そのような状況であれば、きちんと

した説明がなければ、銀行職員に

とって負担の大きい、赤字の会社で

説明も十分に聞くことができない

という会社への融資は断られて

しまう確率は高まるでしょう。


また、最近、金融庁は金融検査

マニュアルを廃止する意向を示す

など、銀行の自主性を重んじる

方針を示しています。


これは、銀行にとっては、事業の

収益は自己責任であるということ

でもあります。


だからこそ、手間のかかる融資先

への融資は避けようとする傾向が

強まるということです。


このように書くと、会社は銀行の

手間を減らす配慮をしなければ

ならないのかと感じる方もいると

思います。


しかし、銀行は融資審査の手間を

減らすということを求めている

訳ではありません。


「中小企業の会計に関する基本要領」

( https://goo.gl/hR8Y2x )に基づく

会計を行い、月次決算を行うだけで、

多くの場合は、銀行は十分な情報を

得ることができます。


むしろ、会計の体制をあるべき状態に

するということです。


そうすることが、融資対策だけで

なく、自社の事業の改善にも活用

できるようになります。


ちょっと青臭いですが、これからは

正攻法でなければ融資は受けにくく

なると私は考えています。

 

 

 

 

 

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