[要旨]
会社の業績のよくない原因は、あまり利益をもたらしてくれない顧客に対して、多くのコストをかけてしまい、本来、多くのコストをかけるべき優良顧客への対応が手薄になるということがあげられます。しかし、経営者の決断力が少ないと、解消すべき顧客との取引を解消できず、業績の改善がなかなか進まないままとなります。
[本文]
経営コンサルタントの山田修さんらのご著書、「プロフェッショナルリーダーの教科書」を読みました。同書には、山田さんが、かつて、社長として経営改善に携わった、X社の事例が書かれていました。X社は、米国の製紙会社の日本法人で、缶飲料などを、複数まとめて手にかけてぶら下げて、持てるようにした紙パックを販売する事業を営んでいました。山田さんが着任する前年のX社の売上は、約40億円で、経常赤字は約22億円でした。しかし、山田さんが着任した後の半年間で、売上を前年比で20%改善し、利益も黒字になったそうです。そして、翌々年から、売上高経常利益率は8%に改善したそうです。
このような改善のために、山田さんが実施した手法は、ABC分析だそうです。X社の顧客は120社あったそうですが、これを販売額で、Aグループ5社、Bグループ25社、Cグループ90社に分けたそうです。AグループとBグループの基準は書かれていませんでしたが、Cグループは、年間販売額が1,000万円以下の会社にしたそうです。そして、山田さんは、C社には営業マンを訪問させず、すべて、電話で注文を受けるようにしたそうです。また、X社が顧客のCグループの会社の工場に置いてある機械が故障しても、X社の従業員を派遣して修理させることはせず、X社が紹介したメンテナンス会社に顧客から電話してもらい、修理代も顧客に負担してもらうようにしたそうです。
その結果、1年以内に、Cグループの顧客のうちの半分が、取引解消になったそうです。しかし、前述したとおり、この手法で、X社の業績は黒字化したそうです。ただし、業績の黒字化は、Cグループの顧客の半分との取引がなくなっただけではなく、従業員の意識改革や、Aグループの顧客への手厚い対応も要因になっているようですが、Cグループの顧客との取引解消の効果は高いことに間違いはないでしょう。とはいえ、山田さんの言うように、そんなにうまくいのかと疑問を持つ経営者の方も多いと思います。これについては、私は、劇的な効果があることまでは証明できませんが、実践するだけの価値があると考えています。
というのは、山田さんも述べておられますが、Cグループの顧客を他社に奪われるとしても、それは、顧客を失うというよりも、「(トランプの)ババ」を他社に引き受けてもらうという面もあるからです。山田さんが実践した、顧客をABCのグループに分ける手法は、有名なパレートの法則、すなわち、「売上高上位20%の顧客が、利益の80%をもたらしてくれている」という考え方によるものです。そして、これは、逆に、「得られる利益額下位20%の顧客に対し、会社の労力(コスト)の80%が割かれている」とも言えると、私は考えています。
本来は、多くの利益をもたらしている顧客に対してこそ、多くの労力を割いて、より大きな取引を得る努力をするべきところ、利益額の少ない顧客からのクレーム対応や小ロットの受注などの対応で、そちらにばかり気をとられてしまい、受動的な活動しかできなくなってしまえば、本末転倒になってしまうでしょう。ただ、もうひとつの問題は、そのような状況にうすうす気づきながら、決断力のない経営者は、「売上を減らしたくない」という大義名分を持ち出して、現状を変えようとしないことです。「ババ」を抱えないような決断力を持つことも、経営者として重要な資質だと、私は考えています。
2022/7/1 No.2025