[要旨]
ミスターミニットは、かつて、経費率を下げるために、従業員数を減らしたことがありましたが、それは、かえって、対応できる顧客数を減らし、また、客離れを引き起こしていました。そこで、当時、社長だった迫俊亮さんは、従業員数を増やし、また、がんばりが報われる仕組みを取り入れることにしました。このように、改善策を決める際は、単に、目先の経費を減らすというようなことをせず、売上高や利益の増加と整合性のとれたものにしなければならないことに注意が必要です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんがミスターミニットのシンガポールの店舗の業績を改善する際、在庫管理の体制を整えて、従業員による商品の盗難の防止と、売上に応じたインセンティブ制度を導入してモチベーションを高めるといった、仕組みの改善を行ったことで、4か月目の売上を前年比130%とすることができたということを説明しました。これに続いて、迫さんは、日本に戻り、ミスターミニットの社長になってから、仕組みのつくり直しにあたって、間違ったKPIの設定を修正したということをご説明しておられます。
「近年、多くの会社では、事業の達成度を測るために、KPI(重要業績評価指数)を設定している。KPIは、営業売上目標だったり、顧客満足だったりと、その事業に沿い、かつ、最も経営へのインパクトが大きいものを設定することが一般的だ。しかし、ミスターミニットは、その設定を大きく間違え、それゆえ、会社に絶望的な雰囲気が蔓延していた。そのKPIこそ、『人件費』だ。当時、ミスターミニットは、現場で稼ぐ売上『額』が落ちる一方だったため、利益『率』を上げるしかない状況だった。
ところが、ミスタミニットは、駅やショッピングセンターといった、立地の良さを活かした店舗商売。コストの大きな割合を占める家賃には手をつけることができないため、必然的に経営サイドは、割合が大きく、短期間で結果を出すことができ、かつ、強制的に動かせる費用--『人件費』を狙った。しかし、その一見合理的な判断によって、何が起こったか。店舗に配置される人員は、ギリギリまで削られ、お客様が来店しても対応できなくなり、さらなる客離れを生んでいた。(中略)僕は、すぐに、KPIから『人件費』を消すことにした。
さらに、結果を出しているのに、『会社都合』で昇格させられていなかったオペレーターたちは、試験を実施せず、全員、ショップマネージャーに昇格させた。(中略)『がんばれば報われる』という、当たり前のことが当たり前に実行される安心感を、まずは取り戻したかった。(中略)サッカーの試合中に、敵が突然手でボールを持ってゴールを決め、それが許されるような試合はしらけてしまう。逆に、自分がいくらゴールを決めても加点されなかったらあ、最早、棄権したくなるだろう」(115ページ)
この迫さんのご指摘も、誰もが理解できることなのですが、実際の事業活動の場では、見逃されやすいことだと、私は考えています。ミスターミニットの例では、従業員数を減らすことで経費率は低くなりますが、同社のようなサービス業では、売上高は従業員数に比例します。ですから、従業員数を減らすことは、売上高を減らすことになる訳ですが、同社では、かつて、人件費は削りやすいという理由だけに目が向いてしまい、誤った判断をしてしまったのでしょう。したがって、前回もお伝えしたように、経営者が実施しようとする改善策は、売上高や利益を減らすことと整合性がとれていなければなりません。
このような整合性のとれない改善策について、迫さんは、「サッカーの試合でゴールを決めても加点されなかったらあ、最早、棄権したくなる」と述べておられます。しかし、同社の失敗例のように、十分な検討をせずに従業員数を減らしてしまい、経営者の意図とは反対に、売上高や利益を減らしてしまっている会社は少なくないのではないでしょうか?したがって、このようなことが起きないようにするためには、前回も説明したように、戦略マップを作成して改善策を決めるようにすることをお薦めします。
2023/10/15 No.2496