鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

失敗したときのペナルティを無くす

[要旨]

ミスターミニットは、かつて、KPIにクレームに関する項目があったため、従業員たちが委縮して、クレームになりそうな仕事は最初から断り、それがさらに顧客の満足度を下げていました。そこで、同社元社長の迫俊亮さんは、社長時代に、KPIからクレーム項目を外し、また、失敗しても評価を下げないことを約束することで、従業員の顧客への積極的な姿勢を回復させていきました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ミスターミニットは、かつて、経費率を下げるために、従業員数を減らしたことがありましたが、それは、かえって、対応できる顧客数を減らし、また、客離れを引き起こしていたため、当時、社長だった迫さんは、従業員数を増やし、また、がんばりが報われる仕組みを取り入れるなど、整合性のとれる改善策を実践し、業績を改善したということを説明しました。

これに続いて、迫さんは、当時、同社のKPIに設定されていた、クレーム数・金額についても妥当ではないと判断し、それをKPIから外したということを説明しておられます。「ミスターミニットには、まだ『潰すべき仕組み』があった。『人件費』に次ぐ現場のやる気を削ぐKPI、『クレーム(数・金額)』だ。お客様からのクレームを報告すると、怒られ、評価が下がり、(上司の)虫の居所が悪ければ降格させられる。

これは、野球選手が、どんなにファインプレーを連発して活躍しても、一度でも、エラーを出したら、二軍に落とすと言われているようなもの。そんな環境だと、次第に全力を出せば届くかもしれないボールも、エラーになることを恐れて、追いかけなくなってしまう。(中略)『BtoCビジネスだから、お客様第一、クレームを起こさないことが大切だ』という、一見、正しそうな論理から生まれたKPIによって、現場は疲弊していた。(中略)100%できる仕事だけ選んでいたら、クレームは限りなくゼロに近くなる。

けれど、困っているお客様のリクエストに応えたいという職人魂ゆえに、難易度の高い仕事を引き受け、結果的にクレームや弁償につながってしまうこともあるはず。(中略)そこで、僕は、KPIからクレーム項目を排除した上で、『失敗しても減給も降格もしない』ことを評価制度として約束した。また(中略)、『失敗してもあなた個人の責任ではありませんよ』というメッセージである、フォロー体制(クレーム処理は、5万円まで現場で決裁できる権限の付与)を整えた」(118ページ)

多くの経営者の方は、部下に対し、「チャレンジ精神を持って欲しい」と望んでいると思います。そして、「もし、お前が失敗しても、オレが責任をとる」と口にすることもあると思います。しかし、本当に失敗したとき、その責任を追及しないということは少ないのではないでしょうか?本旨から外れますが、部下の失敗に関しては、経営者の方にも言い分はあるでしょう。

というのは、部下が真剣に仕事をしなかった結果、失敗してしまった時まで、経営者が責任をとらなければならないのかと感じることもあるでしょう。でも、「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのも社長の責任」という一倉定さんの言葉が示しているように、社長は、部下の稚拙な失敗まで責任を負わなければならないという、割に合わない役割を担わなければなりません。ですが、そういった社長の姿勢を見せることで、部下の忠誠心は高まってくると思います。

話しを戻すと、部下に対してチャレンジ精神を持って欲しいのであれば、迫さんのように、「失敗しても減給も降格もしない」と宣言しなければ、部下はチャレンジをしようとしないでしょう。これは、言い換えれば、経営者が部下に対してチャレンジを望むのであれば、チャレンジするリスクも経営者が負わないのであれば、部下もチャレンジするリスクを避けるということです。

そこで、経営者が本当にチャレンジを望んでいるのであれば、経営者がそのリスクを負う意思があることが部下に伝わらなければなりません。迫さんの場合、それは、KPIや評価制度を変更したり、クレーム処理の権限委譲をしたりするなどして、目に見える形で伝えています。でも、繰り返しになりますが、多くの場合は、経営者の方が、部下に対して「チャレンジして欲しい」と口にするだけで終わってしまっているのではないでしょうか?

2023/10/16 No.2497