鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

リーダーとはフォロワーがいる存在

[要旨]

ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんは、同社の社長時代、メンターの澤田貴司さんから、理論が正しいからと言って、必ずしも部下が指示に従うとは限らないと助言されました。これに基づき、迫さんは、リーダーシップについて考え、「リーダーはフォロワーがいる存在」という概念を導きました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんが、ミスターミニットの事業の改善策について、当時、ファミリーマート社長だった澤田貴司さんに相談したところ、「まるでコンサルタントがつくったようなプランで、従業員の方には響かない」と指摘され、経営者は、理論の正しさの前に、従業員の方から信頼が得られるかどうかが重要ということを教えてもらったということを説明しました。

この澤田さんのご指摘を受けて、迫さんは、リーダーシップについてどのようにとらえればよいのか、ご自身の考え方を述べておられます。「澤田さんに、『ウザい』と言われ、あるべきリーダーシップについて考えているなかで、ひとつの概念が浮かんだ。『リーダーとは、フォロワーがいる存在である』フォロワー、つまり、支持してくれる人、“leader”の文字通り、ついてきてくれる人だ。

『ちょっと面倒くさいけど、あの人が言うなら人肌脱いでやるか』、『あの人を支えたい、ついて行きたい』、そう思ってもらえる存在こそがリーダーであり、逆に言えば、信頼してついてきてくれる仲間たちがいなければ、いくら権限が大きく、役職が高くても--それこそ社長であっても、リーダーとは呼べないということでもある。役職は人をリーダーにはしてくれない。人をリーダーにするのは、あくまで周りにいるフォロワーたちなのだ。就任から1年経ったころ、かつて、ミスターミニットを見限って去ってしまった社員たちが、50人近く戻ってきてくれたことがあった。これは、(迫さんが部長に抜擢した)清水、そして、同じく現場から部長となった村山たち現場のリーダーが説得してくれた結果だ』(60ページ)

ここで、迫さんは、部下たちが上司の指示に従うかどうかは、理論の正しさではなく、部下から見て上司が信頼できるかどうかだということを、改めてご指摘しておられます。これについても、ほとんどの方は理解されると思いますが、実際に、部下に指示をするときは、自分が部下から信頼されているかどうかについてはあまり考慮せず、「この指示は理論的に正しいから、当然、部下は指示に従うべきだ」と考えてしまいがちです。でも、前回も述べた通り、人は有機的な存在であり、理論ではなく感情で動く面があるため、信頼関係がなければ動かないのです。

そこで、経営者や管理者が、部下に対して迅速に指示に従って欲しいと考えるのであれば、部下から信頼を得なければならず、それを、迫さんの言葉にすると、「リーダーとは、フォロワーがいる存在」ということなのでしょう。ちなみに、組織論の研究の第一人者であるバーナードは、「組織の構成員は、組織に関する自分の行動を決めるものとして、権威を受容する」と述べています。これは、「権威」は、例えば、社長が課長を部長に昇格させたときなど、職位が与えられた時に、権威も与えられるというものではなく、部下が、部長の権威を受容しなければ、権威が生じないという意味です。このような考え方は、「権限受容説」と言われています。

ここまでの説明で、権威は部下が受容しなければ生じないということは、容易に理解できると思いますが、一般的には、職位や肩書きを持てば、権威も発生すると考えられてしまうこともあるようです。ですから、会社で昇格した人が、「自分は出世したのだから、部下たちは、当然、自分の指示に従うはずだし、従わなければならない」と考え、威張り出してしまうことがあるのは、その人が、権威は職位や肩書についてくるものと考えているからでしょう。でも、それは、権限受容説に照らして見れば、間違った考え方です。そして、迫さんの考え方も、表現方法は異なっても、バーナードの権限受容説と同じものと言えるでしょう。

2023/10/6 No.2487