鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

課題解決ではなく課題を変えること

[要旨]

ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんが、同社社長時代に、当時、ファミリーマートの社長だった澤田貴司さんから、迫さんのしていることは戦術レベルの仕事であり、戦略レベルで判断をしなければならないと助言を受けました。それ以降、迫さんは、「経営者の仕事は、現在の課題解決ではなく、課題を変えること」と考えるようになり、より適切なマネジメントに徹することができるようになったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんがミスターミニットの社長だったとき、オーダーメイドで会社の仕組みの作りなおしをしたそうですが、それは、内部環境は会社によって異なるからであり、単に、業績の良い会社の施策を真似するだけでは、事業は改善しないということを説明しました。

これに続いて、迫さんは、迫さんが同社の社長に就いたばかりのころ、業績がなかなか改善せずに奮闘していたとき、メンターの澤田貴司(ファミリーマート元社長)さんから、「経営者の仕事は、課題解決ではなく、課題変革だ」という助言を受けたことについて述べておられます。「ある日、そんな僕に、澤田さんがアドバイスをくださった。『迫くんさぁ、それじゃあ、軍曹だよ、社長は、軍曹がやることをやってちゃいけない』よくわからないような顔をしていた僕に、澤田さんは、こう続けた。『例えば、原宿に旗艦店を開いて東京に進出する以前のユニクロと、いまのユニクロの経営課題は同じだと思うか?』(中略)

ユニクロは、元々、ロードサイドを中心に展開していて、いかに安く卸して売るか、チラシを撒くかで勝負をしていた。あのままだったら、グローバル展開し、1兆円を超える売上高をたたき出すような会社には絶対になっていない。いまのユニクロがあるのは、柳井さんが社長として、『戦場』を変えたから、商品数を絞り、大量に自社生産することで原価を下げ、都市部に進出し始めたからだ。澤田さんは、入社1年半でファーストリテイリングの副社長に昇り詰め、フリースブームなどによる爆発的な成長をけん引した人物だ。

澤田さんが在籍していた5年で、ユニクロは、新たなフェーズに入り、大きく成長した。もし、あのまま安売り競争に留まっていたら、ここまでの成長は見込めなかっただろう。しかし、僕がミスターミニットの社長になって考えていたのは、ユニクロが他社生産商品を取り扱ったまま、ロードサイドで安売り競争を続けるのと同じこと。現在の延長線上の課題解決に過ぎず、『いまのミスターミニット』をどう成長させるかに終始していたのだ。

もちろん、適切な処置をほどこせば、青息吐息の『ダメな会社』をV字回復に導くことはできる。けれど、その後、ユニクロが経験したような急角度の成長は望めない。経営者の仕事は、『現在の課題解決』ではなく、『課題を変える』こと。会社のステージを変える大きなアクションを取ることで、非線形の成長に導くことだ。目の前にある、すでに明らかになっている課題の解決は、経営者ではなく、COOや部長、マネジャーといった……そう、『軍曹』がすべき仕事なのだ」(193ページ)

迫さんの、「経営者は、戦術レベルではなく、戦略レベルで経営に臨まなければならない」というご指摘は、多くの方がご理解されると思います。その一方で、「日々、目の前の課題解決に精一杯で、経営者らしいことを、なかなか実践することができない」と感じる経営者の方も少なくないと思います。確かに、中小企業では、従業員のスキルが低かったり、従業員数が少なかったりするという課題があり、長期的な方針に基づいて経営したいと考えていても、なかなか、それを実践できないということは、私も理解できます。

とはいえ、いまではグローバルに展開している日本の会社でも、その多くは、かつては、家族経営だった時代があります。したがって、会社を成長させることができるかどうかは、経営者の方が、従業員を育成し、戦術レベルでの判断の権限を委譲できるようにすることができる能力を持っているか同課が重要な鍵になると言えるでしょう。そして、それが実現できれば、経営者が経営者の本来の役割に専念できるようになることで、さらに、より適切なマネジメントを行い、競争力を高めていくことが可能になるでしょう。

ただし、上から目線で恐縮ですが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、経営者の方の中には、無意識のうちに、経営者本来の業務に向き合おうとせず、戦術レベルの判断することだけに逃げていると感じられる場合もあります。例えば、月次ごとの業況確認が大切とわかりつつ、その実践をずっと避けているという会社は珍しくありません。定期的な業況の確認を行わなければ、戦略レベルでの判断もできないでしょう。話しを戻して、経営者の優劣は、経営者がどれだけ経営者本来の役割に専念できるかどうかであるということと言えるのではないかということを、迫さんのご指摘を読んで、改めて感じました。

2023/10/25 No.2506