[要旨]
ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんは、同社社長時代、コミュニケーションを密にすることは、会社が「病気」になることを防ぐと考え、従業員の方と可能な限り接触していたそうです。また、コミュニケーションが機能しなくならないよう、複数の経路のコミュニケーションを確保するようにしていたそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんがミスターミニットの社長だったとき、社内のあらゆる層の会議の議事録を、ほぼすべて公開し、これにより、従業員が問題を指摘しても、「スルーされた」と落胆させず、問題可決のための活動を継続させることを狙っていたということを説明しました。これに続いて、迫さんは、社内でのコミュニケーションの確保するための工夫について述べておられます。
「組織内で100%の意思疎通を行うのはむずかしい。どうしても抜け漏れは出てしまうものだ。だから、僕は、地方に行くときや、年に1回の社員合宿の時には、マネージャークラスの社員だけでなく、普段は話せない現場社員とコミュニケーションを取り、『バグ』が起こっていないか、確認するようにしている。エリアマネジャーから上がってくる情報と現場の感覚に齟齬がないか、トップとして伝えているはずの情報が伝わっていないエリアはないか、誤って伝わっていないか(を確認する)。
同時に、『このお願いを何回もしているんですけど、一向に変わる気配がなくて…』といった現場の声も拾い集めて、双方から確かめていく。そこで気づいたことは、『店舗が汚い』といった実務的な点も含め、すべてエリアマネジャーたちに伝えて改善を促してもらう。なお、あるべき伝達経路を通すため、また、マネジャーや部長の顔を潰さないため、僕から、直接、現場に指示はしないようにしている。多様なコミュニケーションの場を持つことは、組織の『病気』を防ぐために、欠かせない。
組織のどこかの血行が悪くなっていたり、腫瘍ができていたりしても、いつも同じ一方向からレントゲンを撮るだけでは発見できない可能性があるからだ。だからこそ、ときにはレントゲンを違う方向から撮ってみる、ランダムにいろいろな箇所の血管をチェックしてみるなど、複数のアプローチが必要不可欠となる。その『健康診断』を受けることで、気づける病気があるし、治療に入ることができるのだから。だから、やっぱり、コミュニケーションに多すぎることはないのだと思う」(181ページ)
迫さんの、「コミュニケーションに多すぎることはない」というご指摘は、これに尽きると思います。特に、最近、不祥事を起こした会社に共通していることは、経営者が、「現場で起きていることが、経営者まで伝わってこなかった」と弁明していることです。しかし、経営者とは、迫さんも述べておられるように、問題が問題のまま放置されないよう、常に現場から情報を集め、改善策を考え、それを実践することが本来の役割です。
しかし、コミュニケーションが機能していなければ、それができない、すなわち、経営者の役割を果たすことができないわけです。ところが、もし、現場に問題点があっても部下から報告がない、すなわち、コミュニケーションが機能していないとき、上司や経営者は、それに気づきにくいことが多いでしょう。でも、人情として、悪い情報は上層部にはなかなか伝えにくいものであり、そのことは誰でもわかっていることでしょう。
だからこそ、経営者は、迫さんのように、「コミュニケーションに多すぎることはない」という考え方を持ちながら、仕事に臨まなければならない訳です。したがって、前述したような、不祥事を起こした会社で不祥事が起きた原因は、それほど複雑な事情があったわけではないと、私は考えています。そして、そのような、複雑ではない状況を打開できなかった経営者は、それだけの能力しかなかったということなのではないでしょうか?
2023/10/22 No.2503