鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

齟齬のない仕組みが業績を向上させる

[要旨]

ミスターミニットの元社長の迫俊亮さんは、シンガポールの店舗の業績を改善する際、在庫管理の体制を整えて、従業員による商品の盗難の防止と、売上に応じたインセンティブ制度を導入してモチベーションを高めたことで、4か月目の売上を前年比130%とすることができました。このような、仕組みを改善することで業績を高めることができます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、迫俊亮さんのご著書、「やる気を引き出し、人を動かすリーダーの現場力」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、迫さんがミスターミニットの社長に就任してから、社会学的なマネジメントの観点から、従業員が仕事でミスをしても、従業員個人に原因を求めず、会社の仕組みに原因を求め、組織として改善できる仕組みをつくるというアプローチをとっていたということを説明しました。

これに続いて、迫さんは、「仕組みの」改善について、迫さんが社長に就く前に、同社のシンガポールの事業を改善したときのことを例に挙げて説明しておられます。当時、シンガポールでの事業は、日本の事業よりも悪化しており、迫さんは、現地を訪れてヒアリングを行い、その原因を分析したそうです。「2日間ですべての店舗を回り、どのような問題があるのか、自分の目で確認しつつ、現場の社員にヒアリングしまくると、問題の本質はすぐに見えてきた。1つ目が、店舗を支える仕組みがまったく機能していないこと。

なんせ、僕がシンガポールのオフィスのドアを開けると、そこには1人の経理の女性しかいなかったのだ。(中略)そんな状態だから、技術のトレーニングはもちろん、在庫管理といった基本的なオペレーションまで、現場に何も提供できていなかったのだ。2つ目が、モチベーションを上げるインセンティブの仕組みが整っていないこと。東南アジアは、日本と違って、完全固定給だったため、いくら売上を上げても、生活が豊かになるわけではない。

そのせいで、モチベーションに加えて、モラルまで低くなっていたのだ。……とはいえ、さすがに、『みんな、在庫を盗んで売っていますよ』と、現場の社員に言われたときは驚いた。『盗みがなくなれば、もっと利益が出るようになるんじゃないですかね』なんて、日本じゃ考えられない報告だ。(中略)本格的にシンガポールに移った僕は、もう一度、2週間かけて、じっくり店舗を回った。

その上で、実行したことは、(1)在庫管理などのオペレーションづくり、(2)給与と売上と連動させるインセンティブ設計のふたつだけ。まず、この(1)と(2)は両輪だ。必ずセットで実行しなければ、まっすぐ前には進まない。なぜなら、もともと在庫を盗んで儲けを得ていた現場の社員にとって、(1)の実行によって『盗めなくなること』は、マイナスでしかないからだ。(中略)

そこで、(2)のインセンティブの仕組みが絶対に必要だった。がんばって結果を出せば、盗みを働くよりはるかにプラスの収入が得られる。そんな仕組みさえつくれば、伸び幅が大きい分、やる気につながるはずだと考えたのだ。(中略)不和が生じている部分のガバナンスを整え、同時に、インセンティブの仕組みをつくってやる気を刺激する。このふたつを両輪にして走らせるという仮説は、大当たりだった。シンガポールに来て4か月目、売上は早くも前年比130%を達成した」(110ページ)

迫さんが実践したことは、在庫管理の体制を整備して不正をなくすことと、売上に応じて従業員にインセンティブを与えることです。これらはそれほど複雑なことではないのですが、シンガポールの店舗においては、事業活動を強力に前進させる歯車の役割を果たすこととなったようです。ところが、このような、「齟齬のない仕組みづくり」は、現実には、頭で考えるほど容易ではないようです。

というのは、特に、中小企業の経営者の方は、自身も現場に立っていることが多く、なかなか、事業活動全体を俯瞰することができないでいることが多いと考えられるからです。だからこそ、経営者の方は、マネジメントに軸足を置くことが望ましいと言えます。また、私は、事業改善のお手伝いをしている会社には、戦略マップに基づいた戦略策定を提案しています。

詳細な説明は割愛しますが、戦略マップを用いると、戦略同士で齟齬がなくなり、効率的な事業活動が実践できるようになるからです。経営者の役割というと、社内で旗振りをしたり、新規顧客を開拓したりといった、事業活動を牽引する役割を思い浮かべる方が多いと思いますが、こういった精緻な仕組みづくりも、業績を高めるための重要な役割と言えます。

2023/10/14 No.2495