[要旨]
米国の製薬会社であるジョンソン・アンド・ジョンソンは、自社製品の鎮痛剤を服用した顧客が7名死亡したことから、直ちにそれを全米から回収しました。結果として、死亡の原因は鎮痛剤と無関係だったのですが、同社の対応は国民から評価を受け、直ちに、業績を回復しました。
[本文]
今回も、前回に引き続き、慶應義塾大学大学院特任教授の高橋俊介のご著書、「人材マネジメント論-儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント」を読み、私が気づいた部分について述べたいと思います。(ご参考→ )米国の経済界では、1990年代から、バランス・スコア・カード(BSC)が重視されるようになりましたが、高橋教授によれば、それは1982年に起こった、「タイレノール事件」が背景にあると説明しておられます。
「クレド経営のぶれのなさを世間に知らしめたのが、1982年に起こった、タイレノール事件だ。この歳、ジョンソン・アンド・ジョンソン(J&J)のグループ企業が製造する鎮痛薬、『タイレノール』を服用した、シカゴ地域の顧客7名が死亡するという自己が起こったのだ。このとき、J&J社は、即座にタイレノールを全米の市場から引き揚げた。まだ自社製品と死亡事故との間に因果関係があるかどうか、明らかにされていない時期であった。この回収には、1憶ドルの費用がかかったと伝えられている。
しかし、やがて、この事件は、商品に、外部から毒物が混入されたのが原因で、J&J社には、直接、責任がなかったことが明らかになる。アメリカ国民は、こぞって、J&J社のクレドに則った行動を称えた。称賛は、販売にも反映し、半年間も販売を中止していたにもかかわらず、事件前に、すでに市場でナンバーワンだった、タイレノールのシェアが、販売再開後、事件前のシェアを超え、結果として、J&J社のその年の決算は、なんと、前年度を上回ったのである」(86ページ)
クレド経営については、ほとんどのビジネスパーソンの方がご存知と思いますので、改めて詳しい説明は不要と思いますが、高橋教授によれば、「短期的には合目的的でない行動に映ったとしても、長期的に見ると、一貫した経営姿勢が、企業を安定させることにつながり、特に、変化の激しい複雑化した市場においては、クレド経営のような、長期的、かつ、自律的経営が有効」と説明しておられます。
しかし、問題なのは、このことを理解はできても、実践することは、やや、難しいようです。というのは、短期的であれ、業績が下がることは、経営者としてそれを避けようとする心理が働くためです。最近の、日本の複数の大企業で起きている不祥事などは、短期的な成果を優先してしまうことが原因でしょう。したがって、役員や従業員の評価は、財務指標などの定量評価だけに限定せず、顧客満足度、従業員満足度、プロセス評価なども採り入れることで、クレド経営を定着させていくことが求められると言えるでしょう。
2022/10/4 No.2120