鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ワンマン社長は部下の能力を伸ばさない

[要旨]

サクラバックの社長の橋本淳さんは、社長を引き継いだとき、前社長がワンマン経営だったため、社内には、いわゆる有能な従業員が育っていませんでした。そこで、時間をかけて組織改革を行った結果、12年間で売上高を65億円から100億円に伸ばすことに成功しました。このように、現在は、組織的な活動が競争力を高めることになるので、そういった面から、ワンマン経営は避けた方が望ましいと言えます。


[本文]

富山県にある段ボール会社、サクラパックスを継いだ、3代目社長の橋本淳さんが、ダイヤモンドオンラインに、事業承継に関するご自身の経験について寄稿しておられました。橋本さんの記事によれば、橋本さんが社長を引き継ぐとき、父親から、次のように言われたそうです。「私はずっとワンマンでやってきて、だから、会社をここまで大きくすることができた。その代わりに、優秀な人材を採用することも、社員を育てることも一切してこなかった。だから、人についてはお前に何も引き継がせるものがない」と言われたそうです。

そこで、橋本さんは、「有望な40代の社員15人をピックアップして育てようとしましたが、教育を依頼した経営コンサルタントから。『これまで会社が何も教育してこなかったせいだと思いますが、根本的な学びができていないので、この15人では無理です』」と、言われてしまったそうです。そこで、即戦力となる役員数名を外部から招き、社内改革をしようとしたところ、その改革が急速だったため、他の「役員からは、『社長ばかりが先に行ってしまって、社長の背中が見えない』と言われ、現場ではこんなやり方にはついていけないと、15人を超える社員が一挙に退社、工場が回らなくなってしまった」そうです。

この経験から、橋本さんは、「多くの人は大きな変化を好まず、変化に対応したくないのだ」ということに気づいたそうです。そこで、橋本さんは、「多数の改革を亀のようにゆっくりとしたスピード感で進めていく」ことにしたそうです。その結果、「それが功を奏し、当初の予定よりは時間がかかりましたが、顧客本位の考え方が社員たちにすっかり浸透して、顧客と一緒に包装・梱包の課題解決に取り組み、顧客の利益向上を支える役割を担うようになった」そうです。ちなみに、橋本さんが社長に就任した2008年の売上高は65億円でしたが、2020年は100億円になったそうです。

この橋本さんの記事は、事業承継がテーマですが、私は、事業承継がない会社でも、組織改革によって売上高を伸ばす際の参考になると思いました。すなわち、前社長はワンマン経営だったことから、人材が育たず、事業の成長に限界があったわけです。そして、社長が代替わりしたことがきっかけで、会社の組織改革が行われ、業績が伸びて行ったということです。一般的に、会社の業績を伸ばそうとするとき、いわゆる営業活動の強化を思い浮かべる方が多いと思いますが、現在は、橋本さんの会社のように、組織改革によって売上高は伸びる時代です。すなわち、個人の能力ではなく、組織的な活動が実を結ぶ時代です。そういった意味から、経営者が「ワンマン社長」になることは、ますます、避けなければならないと言えるでしょう。

2023/8/27 No.2447