鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会計の活用によるの改善活動の迅速化

[要旨]

荻野屋の社長の高見澤さんは、銀行に提出した経営改善計画に、自分たちの考え方があまり反映されていなかったことから、自主的な改善活動に着手しました。その際、主要な会計データを1か月毎から1週間毎に短縮したり、事業現場でのプロセス改善の判断材料として活用したりして、自社の体質の強化を図っていきました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、荻野屋社長の高見澤志和さんのご著書、「諦めない経営『峠の釜めし』荻野屋の135年」を読んで私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、銀行から経営改善計画書の提出を要求されたとき、銀行から指定されたコンサルタント会社の指導のもとで経営改善計画書を作成することになりますが、その計画書は、融資の返済を確実にすることを最優先するものであり、経営者からみると不本意なものとなるものの、そのようなことに至らないようにするためには、自社の財務状況について、客観視できるようにすることが大切ということについて説明しました。

さらに、高見澤さんは、融資を受けている自社がイニシアティブを握ることができなかったことに疑問を感じ、社外から役員を迎え、社長が指揮をとりながら自社の改革を行うことにしたそうです。「それまでも、財務数字の一般的な管理はしており、現場レベルでは、1日単位で数字の把握はしていたが、1か月単位で経営に報告していた内容を、重要項目たけ抜粋して、1週間単位で報告する制度に変えたことが大きな変化だった。それにより、スピードを上げての情報把握、行動の修正が可能となった。

例えば、峠の釜めしの製造量は、その日の販売予測に対して決めていく、当然、数量は毎日変わり、それに伴い人数も変わるが、実際の製造原価は報告されていなかった。これを改善し、1週間単位で製造効率がどうなっているかなどを確認しながら、業務効率を上げる取り組みを、次々と実行していった。私は、改善計画で求められた貸借対照表損益計算書の改善を進めながらも、会社の現場の管理手法など、経営体質そのものを改善することが大切だと考え、実行した。

会社が持続的に成長するには、帳簿上の改善だけでなく、社員が働いている現場や経営陣の判断のプロセスを改善することが、本当の力になるはずだ。金融機関に安心していただき、一刻も早く会社として独自の考え方や行動ができるようにしたかった。そのためには、財務体質ばかりか、経営そのものを短期的に改善した、収益を大幅に改善するしかないと考えていた。実績のある経営コンサルタントを招いた経営改革は、見事に効果を出せたと思う」(172ページ)

経営に会計を活用していない中小企業は、残念ながら、あまり多くないようです。その原因のひとつは、経営者が会計にあまり詳しくないという面もありますが、もうひとつは、有機的な活動である事業活動を、無機的な数字だけで判断することは適切ではない、また、決算書は、税務署や銀行が提出しろというから仕方なく作っているという思いがあるからだと思います。失礼ながら、かつての高見澤さんも、少しだけそのような考えを持っていたのではないかと思います。

なぜなら、自社の財務諸表を詳細に分析することなく、事業活動だけに注力してきたからです。ただ、引用した内容からも分かる通り、現在では、会計を積極的に活用しています。特に、自社の競争力を高めたり、適切な判断ができる体制を整備したりしている点は注目できる点だと思います。例えば、経営者への報告は1か月毎から1週間前に短縮し、迅速な改善を図っています。また、プロセス改善のために、会計データに基づいて、事業現場での判断業務を行うようにしています。

このようなことは、業績改善のために有効であることは容易に理解できるものの、中小企業では、会計取引の記録そのものが負担と考えられているため、なかなか実践されていないようです。さらに、いまは、効果が高い戦略は、簡単には見い出すことができにくくなっている訳ですから、新しい戦略を探究したり、それを実行したりすることだけに注力せず、まず、会計を活用した事業改善、体質強化を図ることの方がより重要であると、私は考えています。

2023/4/18 No.2316