鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

日記をつけて自分のプレーを客観視する

[要旨]

千葉ロッテ監督の吉井さんは、ニューヨーク・メッツの選手時代に日記を書いていました。そのことは、自分のプレーを言語化する能力を高めることになり、プレーの修正が容易になったほか、自分のプレーの振り返りにもなり、パフォーマンスを向上させることになりました。これは、一般の会社の事業活動にもあてはまります。すなわち、自社の事業の状況を会計情報で把握できるからこそ、改善を要する点が明確になり、効果的な改善活動が可能になります。


[本文]

今回も、前回に引き続き、千葉ロッテマリーンズ監督の、吉井理人さんのご著書、「最高のコーチは、教えない。」を読んで私が気づいたことについて説明したいと思います。できるので、才能をさらに開花させることができるということを説明しました。これに続いて、吉井さんは、ご自身も日記をつけることによって、パフォーマンスを高めたというご経験を述べておられます。

「(選手に対して)多くの質問を繰り返していくと、質問に対する言語化が上手な選手と、下手な選手の違いに気づく。(中略)自分のパフォーマンスをうまく言語化できる選手は、調子の波が小さい。(中略)一方、言語化がなかなかできない選手は、調子の波が大きい。(中略)人は、自分の姿はわからないものだ。しかし、わかっていなければ、自分の状態を言語化することはできない。他人から指摘されたことを自分で納得し、修正し、自分の言葉で説明するところまでいけないと、自分のものになったとはいえない。(中略)そのためにも、しつこいぐらい質問を繰り返し、言語化する癖をつけるしかないと思う。言語化するうえで、日記をつけるのは効果がある。

ただし、自分だけがわかればいい書き方ではなく、誰が読んでもわかるような日記の書き方にするのがポイントだ。つまり、自分のプレーを解説者が解説するように、客観的な視点で書く方がいい。その点で、僕の経験が参考になるかもしれない。ニューヨーク・メッツに移籍してから、僕は日記をつけ始めた。1年目の春季キャンプが始まってから、メッツに在籍した2年間、ずっとつけていた。その動機は不純だ。もし万が一大活躍したら、その経緯を本にして出そうと思ったからだ。だから、人に読まれても恥ずかしくないように、客観的な視点に立って書いた。

大活躍はできなかったので、日記が書籍化されることはなかった。ただ、そのことを大学院のスポーツ心理学のセミナーで話したら、担当教授にこう言われた。『吉井君、きみは知らず知らずのうちに、自分を客観視しながら自分のパフォーマンスを振り返っていたのです。日記を書くことで、いろいろなことに気づき、それをパフォーマンスを上げるために役立てていたんですよ』僕が日記をつけたのは、そんなたいそうな目的はなかった。教授に言われるまで気づかなかったが、結果的に自分を客観視する効果があったのかもしれない」(150ページ)

吉井さんは、日記を書くことが、自分のプレイの振り返りをしたことになり、それが能力を向上させていったということです。この振り返りの大切さについては、これまで述べてきたことから、ここで改めて説明はしません。ただ、吉井さんが強調している「言語化」も重要だと私は考えています。吉井さんも述べておられる通り、正しい投球方法を言語化しておくことで、自分の投球に修正が必要になったとき、すぐに修正が可能になるのです。

これについては、ビジネスにもあてはまると、私は考えています。というのは、事業活動は会計的な評価の対象になっているので、事業に携わっている人は、自分の活動を数値を使って会計的に説明できなければならないと、私は考えています。例えば、中小企業経営者が、銀行に融資を申請するときは、自社の事業の状況や、経営者の方の構想を、数値で説明しなければなりません。もちろん、事業活動の目的は利益を得ることなので、数値で説明することは当然と思われる方は多いと思いますが、実際には、中小企業の経営者の方の中で、自分の頭の中の構想を、数値で示すことができる方はあまり多くありません。

例えば、新商品の販売を開始するので融資が必要というときも、売上増加の根拠は希望的な数値だけで、客観的な根拠が提示されないということがあります。収益の改善を説明する場合についても、単に、経費を削減していくと言葉を述べるだけであり、どの部門のどの経費を削減し、その金額はどれくらいになるかまで説明する場合は多くありません。というのも、多くの会社は現在の個々の経費額を把握していないので、当然、削減できる金額も説明することもできないわけです。

繰り返しになりますが、野球選手は自分のプレーを言語化しているから修正が可能になるのと同様に、事業活動においても自社の活動を数値化しているから、どこをそう改善すればよいかが明確になり、改善が可能になります。したがって、自社の状況を数値で把握する体制が未整備の会社は、まず、月次決算を行ない、毎月10日までに前月の状況を把握できるようにすること、そして、経営者の方が、会計の基本的な知識を身につけるということしなければ、効果の高い改善活動が実践できないままとなります。

2023/5/14 No.2342