鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

同族会社のガバナンスに必要なもの

[要旨]

荻野屋社長の高見澤さんは、銀行の要請に基づいて経営改善計画を実践する中、自身でもリーダーシップを発揮して改善を行いましたが、そんな中、同族会社のガバナンスの重要性を認識したようです。そして、高見澤さんは、企業理念を遵守することがその要諦であると考えたようです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、荻野屋社長の高見澤志和さんのご著書、「諦めない経営『峠の釜めし』荻野屋の135年」を読んで私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、銀行からの融資支援を継続してもらうために、荻野屋さんは経営改善計画に基づいた改善活動を行うものの、自社はあまりイニシアティブをとれないことに不満を持った高見澤さんは、自ら改善活動を行うために会計データを活用した結果、改善活動が迅速になり、また、プロセスの改善も図ることができるようになったということを説明しました。これに続いて、高見澤さんは、同族会社のガバナンスについて述べておられます。

「重要なことは、権力が集中する同族会社のガバナンス体制を、どう築くかである。荻野屋の場合は、荻野屋の歴史を理解し、企業会計などの知識と企業経営の経験が豊富な社外役員の方に来ていただいた。どんな優秀な人材であっても、すべての経営判断を適切に下すことは難しい。ましてや、私のように、知識も経験もないままに経営の舵取りを任せられたような場合は、身近にプロの経営指南役が存在することが必須だと思う。第三者的な立場でガバナンスが適切に機能すれば、同族会社としてはありがたいのだが、なかなか難しい。

昔話に出てくる長老のような存在がお目付け役として存在し、現リーダーに意見を述べる立場の存在があれば、少しはガバナンスは機能するのかもしれない。また、欧米では、同族で構成する集会が存在し、その組織が同族会社に意見を述べることがあるという。会社の後継者も、一族の同意のもとで選出され、必ずしも直系だけではない優秀な人材が経営を任されることもあるという。同族会社でガバナンスを考えるならば、このような仕組みも必要となってくるのではないかと考える。

そして、私が最も同族会社にとって必要だと思うのは、企業理念によるガバナンス体制である。荻野屋の発展の礎を築いたのは、4代目の「みねじ(高見澤さんの祖母)」だった。みねじの経営哲学の確信は、『お客様につくし、喜んでもらうこと』である。(中略)時代に合わせ、事業を変えていくときも、創業から受け継がれている企業理念と照らし合わせることで、経営判断をチェックすることができる。企業理念を墨守することが、強固なガバナンス体制を築くことになる」(178ページ)

私は、実は、同族会社のガバナンスはとても難しい課題であると思っています。とはいえ、企業理念を重要視する高見澤さんと同じような考え方は、ドンキホーテ(パンパシフィックインターナショナルホールディングス)の創業者の安田隆夫さんも、安田さんのご著書、「安売り王一代-私の『ドン・キホーテ』人生」の中で、次のように述べておられます。「当社のCEOは、(2015年6月に)後任の大原孝治へとバトンタッチしたが、それは、会社法上のCEO交代に過ぎない。当社には、より上位の、真のCEOとも言うべきものが存在する、それが企業理念集『源流』だ」

私は、このような考え方は間違っていないと思うのですが、企業理念をつくり、浸透させるだけでは、十分なガバナンスを維持できないと思っています。この他には、会社のディスクロージャーを行うなど、透明性を高めることも重要だと思っています。しかし、このようなことをしても、まだ十分とは言えないと、私は考えています。とはいっても、上場会社でもガバナンスの維持は難しいので、会社の規模を問わず、これは永遠の課題なのでしょう。

しかし、同族企業の多くは、ガバナンスを意識している会社は限られていると思います。高見澤さんは、会社の発展のためにガバナンスが重要と考えているわけですが、むしろ、ガバナンスは邪魔と考えている会社もあるのではないでしょうか?したがって、ガバナンスの維持は難しい課題ではあるものの、ガバナンスを発揮させようとしていることだけでも、ガバナンスをまったく意識していない会社と比較すれば、業績に大きな差が出てくると、私は考えています。

2023/4/19 No.2317