鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

経営理念で価値観を共有する

[要旨]

Bリーグチェアマンの島田慎二さんは、経営理念と経営目標は混同されやすいので注意が必要と述べておられます。ちなみに、経営目標は、数値化できるものであり、一方、経営理念は、経営目標の上位にある普遍的なものであり、会社の存在意義を示すものだそうです。そして、その経営理念があれば、それをブレイクダウンして、従業員とビジョンを共有できるようになり、事業活動をより円滑に進めることができるようになります。


[本文]

今回も、Bリーグチェアマンの島田慎二さんのご著書、「オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか?」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、しっかりとした経営理念がつくられていると、目先の数字や状況に、一喜一憂することなく、経営理念との乖離がないか見極めていくことで、一気通貫の経営が保たれ、健全にPDCAが回っている状態を維持することができるということを説明しました。これに続いて、島田さんは、経営理念は、しばしば、経営目標と混同されることがあるということについて述べておられます。

「経営理念づくりにルールがあるわけではありませんが、経営理念と目標を混同することはよくあります。例えば、ある菓子メーカーが、『せんべいのジャンルで日本一になります!』という経営理念を考えたとします。これは、経営理念でしょうか、それとも目標でしょうか?菓子メーカーとして、せんべいのジャンルで日本一になるというのは、経営理念ではなく、目標です。市場でシェアと●●パーセント取る、その業界で上位三傑に入る、県内随一の菓子メーカーになる、といったものも、すべて目標です。

存在意義である経営理念は、普遍的なものです。その菓子メーカーには、せんべいのジャンルの日本一になろうが、なるまいが、存在する理由があるはずです。それは、菓子を食べた人が笑顔になることかもしれないし、幸せになることかもしれないし、人と人をつなぐことかもしれません。具体的に数値化できる目標の上位にあるもの、それが経営理念です。そして、目標は変わったとしても、ころころと変えるものではないのが、経営理念です。

だからこそ、経営理念を言葉にすると、抽象的なものや観念的なものになるのです。(中略)(島田さんが、千葉ジェッツ代表取締役に)就任したその日に発表した、『千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる』という経営理念も抽象的なものです。(中略)経営理念は抽象的だからこそ、例えば、千葉ジェッツなら、『取り巻く全ての人とは誰なのか』、『ハッピーになるとはどういうことを指すのか』と、ブレイクダウンしておく必要があります。そうすることで、ビジョンを社員と共有できるようになります。これもまた、経営者の重要な仕事です」(56ページ)

島田さんは、経営理念をブレイクダウンすることで、従業員たちとビジョンを共有できると述べておられますが、私はビジョンとは価値観のことだと思います。すなわち、経営理念をつくることで、経営者や従業員の間で価値観を共有できるということであり、私も、価値観が共有できている会社は、事業活動が円滑になると考えています。ところが、私が、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、目標と混同せずに、きちんとした経営理念をつくり、経営者の従業員の間で価値観を明確にしている会社は少ないようです。

実は、経営者の価値観を明確にすることは、思っているほど容易ではないようで、島田さんご自身も、かつて、起業した旅行会社の経営理念は、「株式公開」としていたそうです。しかし、これまでの記事でご説明してきたように、経営理念は重要であり、また、価値観の共有も円滑な事業運営に欠かすことはできないことから、時間がかかっても、これらを策定し明確にすることは大切です。ところで、私は、価値観の共有で成功している会社の事例として、ドンキホーテを運営している、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスを思い出します。

同社では、アルバイトを含むすべての従業員の方に、「源流」というタイトルの、経営理念が書かれた冊子を渡しているそうです。そして、事業活動において、従業員の方たちに権限委譲を積極的に行っていますが、それを実践できる大きな要因は、経営理念によって価値観を共有できていることのようです。ちなみに、この記事の本旨から外れますが、源流の中には、「権限移譲を旨とする当社において、職務上、自分が正しいと思う意見や主張があれば、上司に対しても、はっきり述べるべきである。

上司がそれをどう判断するかはケースバイケースだが、常に部下の意見に『聞く耳』を持つのが当社の上司の要件であるから、いらぬ遠慮をすることはない。単に唯々諾々と命令に従うだけの部下ばかりでは、そもそも権限委譲が成り立たない」と書かれているそうです。これくらい権限委譲の重要性が書かれていれば、部下はのびのびと仕事ができそうですね。話を戻すと、VUCAの時代だからこそ、より、権限委譲は効果を発揮するわけですから、経営理念による価値観の共有も、ますます重要になっていると考えることができます。

2023/7/14 No.2403