鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

会社のルールを経営理念に帰結させる

[要旨]

Bリーグチェアマンの島田慎二さんは、千葉ジェッツの社長時代に、同社を再建するために、細部に至るまで経営理念に基づいたルールを定めたそうです。例えば、就業時間内は禁煙とするルールをつくったときは、残業をなくすようにすることで、従業員を幸福にするという経営理念の実現に資するという紐付けを明確にしたそうです。


[本文]

今回も、Bリーグチェアマンの島田慎二さんのご著書、「オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか?」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、経営理念に基づいた行動を、社長自身が率先垂範すると、従業員の方にも経営理念が浸透し、その結果、従業員の方は社長と同じ価値観で事業活動を行うようになるので、仕事のクオリティが高まるということについて説明しました。これに続いて、島田さんは、経営理念を浸透させるための工夫として、会社のルールを経営理念に帰結させることが大切ということを説明しておられます。

「朝礼や夕礼で社訓やクレドを唱和する職場もありますが、経営理念は日々の実際の行動と紐付けて語られなければ、身にしみて理解することはありません。千葉ジェッツの再建にあたっては、とにかく細部に至るまで経営理念に基づいたルールを定めました。まず、お昼休み以外、就業時間中は、一切禁煙としています。(中略)目安として、たばこ1本吸うのに5分かかるとしましょう。(中略)つまり、1日に10本吸う人は、8時間労働のうち、50分もの時間を休憩していることになります。(中略)それはちょっとおかしな話ですし、たばこを吸わない人と比べたら不公平です。

ただし、これだけでは、たばこの時間がリフレッシュになるとか、喫煙所のコミュニケーションが意外と大事なんだとか、反論したくなる人もいるかもしれません。だからこそ、魂を込めて掲げた経営理念と紐付けることが重要なのです。(中略)禁煙を実施して、ノー残業を達成し、家族との時間を増やしたり、バスケ以外のエンターテインメントに触れて仕事に役立てたり、リフレッシュしたり、さらに、健康にもなれたりするという方が、ずっと有意義ではないか。これこそ、『ハッピーになる』という経営理念を具現化することなのだと考えて、このルールを決めました」(83ページ)

島田さんは、「就業時間中の禁煙は、『千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる』という経営理念に適うものである」とご説明しておられますが、私は、「就業中の禁煙」は、経営理念に紐付けするまでもなく(心の中では反対している喫煙者はいるかもしれませんが)、妥当なものとして受けいれられるルールだと思います。ただ、大切なことは、就業中の禁煙は、経営理念を実現するために必要となるルールであるという根拠をを示すことだと思います。

もちろん、会社のルールの多くは、まったく根拠がないわけではないですが、一般的には、ルールだけが示されていて、その根拠がわからなくなっているものも多いと思います。中には、どうしてこんなルールがあるのだろうというものもあり、理由はわからないけれど、ルールだから仕方なくしたがっているというものもあると思います。私も、かつて勤務していた職場で、始業前にラジオ体操をするという不文律がありましたが、なぜ、ラジオ体操をするのかわからず、「きょうも残業しなければならないほど仕事があるのに、ラジオ体操をする時間がもったいない」と思いながら、体操をしていました。

でも、「統計資料から、ラジオ体操を継続していると、健康が維持される効果が明確なので、当社では、始業前に職員にラジオ体操をしてもらうことを、福利厚生の一環としている」というルールの背景があれば、ラジオ体操に臨む姿勢も変わったかもしれません。話をもどすと、「就業中の禁煙は、なるべく残業をしなくてすむようにするため」という理由が明確になっていれば、喫煙者もそのルールを積極的に守ろうという気持ちになることができるでしょう。そして、このように、経営理念があるからこそ、ルールが生きてくるのでしょう。また、繰り返しになりますが、経営理念に紐付けされたルールをつくるからこそ、経営理念の実現の確実性が高まるのだと思います。

2023/7/19 No.2408