鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

人を憎まず仕組みを憎む

[要旨]

千葉ジェッツでは、ミスが起きた時、規則通りに仕事をして起きたミスか、規則に反して仕事をた結果起きたミスかを判定します。さらに、規則に反して仕事をしたとき、その理由に合理的な理由があるかどうかを判定します。そして、規則に問題がある場合は、個人の責任ではなく、規則に問題があると判断し、規則を変更することで、質の高いサービスを提供できる体制をつくっていったそうです。


[本文]

今回も、Bリーグチェアマンの島田慎二さんのご著書、「オフィスのゴミを拾わないといけない理由をあなたは部下にちゃんと説明できるか?」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、島田さんが千葉ジェッツの社長時代に、同社を再建するために、細部に至るまで経営理念に基づいたルールを定め、それを従業員を幸福にするという経営理念の実現に資するという紐付けを明確することで、経営理念が強く実効力を持つようにしたということについて説明しました。これに続いて、島田さんは、ミスが起きたときに、ルールに問題がないかを検証し、会社の改善に活かしているということについて述べておられます。

「社員がいい加減な仕事をしたことで招いたミスに対しては、社員のキャリアを問わず厳しく指摘します。(中略)というのも、実は、千葉ジェッツでは、よりよいサービスを提供することで、顧客満足向上を図るため、業界で初めてISO9001(品質マネジメントシステム)を取得しており、仕事(サービス)のクオリティに対しては、社員たち自身、普段から高い意識を持っていることを知っているからです。それでも、実際、ミスは起きてしまっているわけですから、いったんは指摘します。しかし、そこから、単に、ミスをした個人を責めることはしません。

どうしてミスが起きたのか、会社の仕組みやルール、マネジメントシステムにやりづらい面があるからじゃないかという視点で事態を見極めることが重要です。私は、『人を憎まず仕組みを憎む』ということを、常々、社員に言っています。ミスが起きたときには、その内容を、まず、会社の規則に照らして、不適合か、適合か、その見分けをします。それで、もし、いままで規則になかった、つまり、不適合のことにより、止むを得ず怒ったミスであれば、新たな仕組みをつくるなどして、同じミスを防ぐために規則を改善しようと判断します。一方、適合の場合、つまり規則があるのに、それに反したことをしたことやって起こったミスは、まず、当事者に理由を聞きます。

そして、もし、『規則のことはわかっていたが、この局面では、こういうふうにした方がいいと、自分なりに判断したから』という返事があった場合は、その是非を私が判断します。言い得ているなと判断できれば、新たなルールを設けることもありますし、違和感があったら、もとのルールに則って間違いを指摘します。また、判断できない立場にない者が上長に一切の相談もなく、その判断をしていた場合は、その点についてももらさず指摘します。私たちの意識下には、規則とISO、そして、その上には必ず経営理念という共通した価値があるので、そこで指摘されることがあっても、落ち着いて考えてみると、当該者もちゃんと納得できる、やはりそこが大きいのです」(88ページ)

私は、従業員には遂行責任、管理者(経営者)には説明責任があると考えています。これは、管理者は規則に瑕疵がないことを説明する責任があり、従業員はその規則通りに仕事を遂行する責任があるということです。したがって、従業員が規則通りに仕事を遂行する責任があるものの、それでミスが起きたときは、それは規則を定めた管理者に責任があるということです。とはいえ、従業員も100%遂行責任を果たすことは難しいし、管理者も100%説明責任を果たすことは難しいです。そこで、島田さんのように、ミスが起きたときは、どこに問題があるかを探り、その結果にしたがって改善を行うことが大切になるのでしょう。

そして、経営者として最も避けなければならないことは、「ミスが起きた時は、ミスをした従業員の責任」という捉え方をすることです。というのは、もし、従業員が規則通りに仕事をしていた、すなわち、遂行責任を果たしていたのに、それでミスが起きたときは、その規則を定めた管理者の責任が問われるべきです。でも、ミスはすべて従業員の責任ということになれば、従業員の活動は、ミスを起こさないことを最優先し、顧客の視点に立った活動ができなくなり、それは競争力を低めることになるので、結局、経営者にとっても好ましい結果にはなりません。だからこそ、島田さんは、「人を憎まず仕組みを憎む」ということを、従業員の方に伝えているのだと思います。

このことについては、理解は容易であるものの、「ミスの中には、規則の瑕疵が原因のものもある」という捉え方をする人は、あまり多くないと感じています。その要因は、詳しい説明は割愛しますが、ISO9001の考え方を理解している経営者の方が少ないことだと思います。ISO9001は、よいプロセスはよい成果をもたらすという考え方に基づく仕組みです。もちろん、プロセスには規則も含まれています。ですから、千葉ジェッツが島田さんによって再生したのは、ISO9001を導入し、仕組みの改善が高速で進んだからではないかと、私は考えています。

2023/7/20 No.2409