鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

忙しいときほど次の仕事の種を撒く

[要旨]

季節変動が激しい業界では、受注が多い時期を乗り越えると、今度は、逆に、まったく受注がなくなってしまうということが起こります。忙しいことを理由に、発注する相手に仕事を断りにくいという面もありますが、自立的な事業活動ができなくなってしまうと、自社の事業が健全に発展できなくなってしまうということにも注意が必要です。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、中小企業経営者の方は、売上が減ってしまうという恐怖から、採算が少ない仕事を受注してしまうことがありますが、そのような仕事は、かえって、受注しなかったときよりも会社に損失を与えてしまうので、採算が得られない仕事は断る勇気を持つことが大切ということについて説明しました。これに続いて、渡辺先生は、逆に、仕事が増えすぎるときも注意が必要ということをご著書の中で述べておられます。

「仕事がたくさんあると嬉しいのですが、増えすぎてしまうとネガティブな感情が芽生えてきます。『あ~、いくらやっても終わらない』、『納期が迫っている、間に合わせるしかないけれど、どうしよう』、『まだお仕事をいただいてしまった、ありがたいはずなのに、こなすのか不安』(中略)など、ありがたいはずの受注も、時期が集中したり、増えすぎてしまうと、疲労困憊して、ちょっと嫌な感情になってしまいます。さらに、この忙しすぎる状況が、数か月先になると、バタッと止まってしまうこともあります。(中略)種撒きを怠っていると、新しい仕事は入ってきません。忙しすぎるときの数か月後は注意が必要なのです」(32ページ)

中小企業では、自社でイニシアティブをとることができない、すなわち、生産計画を立てることができないほど、他社に依存してしまうという会社は珍しくありません。そのような会社は、実質的に、販売先の単なる一部門と同じ状態になっているといえるでしょう。そうであれば、自立的な経営もできず、しかも、もし、経営環境が変わって仕事が減ったときも、継続して別の仕事を発注してくれるという保証もありません。

そうであれば、取引先は1社~数社に集中させず、もっと広げていくことが、リスク管理の観点から欠かすことができません。当然、仕事を断ることは勇気のいることですが、自社が自立的に活動できるようにすることの方が重要です。ちなみに、黎明期のマブチモーターも、季節変動する受注に苦心していましたが、製品を標準化するという手法でこれを解決したそうです。以下は、同社のホームページに記載されている、同社の戦略です。

「創業初期の主力市場であった玩具業界においては、お客様ごとに異なる要望に合わせて受注生産を行っていました。モーターが個別仕様のため、多品種少量生産となり、コスト高に陥る結果となっていました。また、その当時の玩具用モーターの大半は、欧米のクリスマス商戦向けの製品に組込まれるため、生産量の季節変動が激しく、年間を通して安定した雇用や品質の確保が困難でした。これらの問題が、モーター生産数量が急増するにつれ顕在化してきたため、根本原因である個別対応から脱却し、同時に季節変動を緩和する必要性があったのです。

上記の問題に対して当社は、お客様のニーズを集約し、最大公約数的な標準モーターを作ることにしました。機種を絞り込むことで大量生産や生産の平準化が可能となり、雇用と品質が安定し、個別対応時に比べコストが大幅に低減され、モーター価格を劇的に下げることが可能となったのです。モーターコストの低減は市場での価格競争力を持続・拡大させ、さらにモーターの性能を絶えず進化させることで用途の拡大にも効果を発揮しました。

こうして標準製品を購入するお客様が増加すれば、規模の経済効果により、さらにコストを削減できるという好循環が生まれ、持続的な競争優位の維持に成功したのです」同社の事例は、受注する側がイニシアティブを発揮して、発注者との間でWin-Winの解決を見た好事例だと思います。もちろん、こういう解決策は、一朝一夕に生み出せるわけではありませんが、少なくとも発注者のいいように使われるままでは、自社の発展はあまり期待できなくなってしまうということに注意が必要です。

2023/3/28 No.2295