鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

在庫管理の仕事はダブルバインドか?

[要旨]

在庫管理担当者は、在庫切れや過剰在庫の発生したとき、その責任を問われることがありますが、本来、在庫管理担当者は、基準在庫を維持するという、遂行責任が問われるべきです。なぜなら、事業活動を、直接、担う人たちは、決められたプロセス通りに活動する責任はありますが、プロセス通りに活動が行われた結果は、プロセスを決めたマネジメント層に責任があるからです。


[本文]

中小企業診断士勝呂隆男先生のブログを拝読しました。ブログの要旨は、「営業からは、もっと在庫を持ってくれと言われるのに、製造現場や経理・経営部門からは在庫削減を求められるのが、生産管理業務における在庫管理の特徴で、仕事そのものが、増やせと減らせの相矛盾する要求をされるという、ダブルバインドであった」というものです。

これに関しては、私も、拙著、「図解でわかる在庫管理いちばん最初に読む本」に書いていますが、在庫管理担当者に対しては、「在庫切れが起きた」、または、「過剰在庫が発生した」という結果責任を求めるべきではないと考えています。では、在庫管理担当者には何の責任もないのかというと、基準在庫を維持するという責任を持たせるべきだと思います。基準在庫とは、広く統一されている基準ではなく、会社の事業戦略などに合わせて、会社が独自に決める基準です。

例えば、「商品Aは、1か月の平均在庫の1.5倍から1.8倍の間を維持する」とか、「材料Bは、在庫数が50個を下回った時点で100個発注する」というような基準です。では、誰がどうやって基準在庫を決めるのかというと、それは、経営者、または、幹部社員が、自社の事業戦略に鑑みて、適切な在庫量を決めます。例えば、量販店のような、たくさんの在庫が必要な事業であれば、在庫切れが起きないよう、基準在庫量を多くすべきです。

逆に、受注生産が多い建設会社であれば、基準在庫量も最小限度となるようにすべきでしょう。ここまで述べてきたことは、至極当然のことのように感じる方も多いと思いますが、勝呂先生も、ブログで書いておられるように、在庫管理の現場では、「在庫切れが起きた」、「過剰な在庫がある」といううような、相反する要求に挟まれることが、しばしば起きているのでしょう。しかし、販売数量や受注数量は、必ずしも正確な予測はできないので、在庫切れや過剰在庫が起きることを、完全に避けることはできません。

このこともほとんどの人が理解していながら、在庫切れや過剰在庫の発生という、結果だけに目が行き、それは在庫管理担当者の落ち度と認識してしまうのでしょう。では、なぜ、在庫管理担当者に、結果責任を求める人が現れるのかというと、私は、結果責任と、遂行責任を取り違えているからだと思います。在庫管理担当者には、基準在庫を維持するという、プロセスを遂行する責任はありますが、在庫切れや過剰在庫が起きたときは、基準在庫が守られている限りにおいては、その基準在庫を決めた経営者や幹部社員の責任です。

すなわち、事業活動を行っている人たちには、決められた手順にしたがっているかどうかが問われており、その結果は、事業活動を管理しているマネジメント層の責任です。もし、事業活動の現場の従業員が、結果責任を持つのであれば、マネジメント層は不要になってしまいます。このことが理解されていれば、在庫管理担当者に、在庫切れや過剰在庫の責任を問うということはなくなるでしょう。

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