鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

フィンテックに関する誤解

日経ビジネス2018年7月2日号に、

「広がる資金繰り革命フィンテックで中小

企業を救え」( https://goo.gl/zAxhsH )

という記事に、誤りが書かれていたので、

今回は、その誤りの内容と、フィンテック

に関する誤解について、書きたいと思いま

す。


誤りはいくつかあるのですが、そのひとつ

めは、サプライチェーンファイナンス

電子記録債権化した売掛金の買取)に

よって、中小企業が安い割引料(≒金利

で売掛債権を買い取ってもらえるように

なったという記述です。


具体的には、銀行の割引料は、1%台後半

~3%程度であるのに対し、サプライチェ

ーン・ファイナンスでは1%かそれ以下と

述べています。


そして、それが実現できる理由として、売

掛債権を支払うのは、仕事の発注元である

信用力のある大企業なので、大企業の信用

力によって、割引料率を低くできると説明

しています。


割引料が低いことは事実とは思いますが、

その理由については、明らかに誤っていま

す。


現在、大手銀行の短期プライムレートは、

1.475%です。


これは、銀行が最も優遇する会社に対して

融資する、最優遇金利という意味です。


(ただし、最近は、これも形骸化しつつあ

り、希に、プライムレートを下回る融資も

行われることもあるようです)


この金利の根拠は、資金調達コスト(≒預

金者に対して支払う預金金利など)+信用

コスト(融資が返済されないことによる損

失の見込み)+事務コスト(職員の給与や

システム運営コストなど)+銀行のもうけ

です。


現在は、低金利時代なので、資金調達コス

トは限りなく0に近く、また、最も優遇す

る会社への融資なので、信用コストも限り

なく0に近いので、事務コスト+もうけが

おおよそ1.475%となります。


これが100%妥当とは言い切れないまで

も、決して、高すぎるとは思えません。


このような前提で、中小企業が大企業の売

掛債権を銀行に買い取ってもらうときの割

引料率が1%台後半であるとすれば、売掛

債権を支払う大企業の信用力は反映されて

いると言えます。


一方、サプライチェーンファイナンス

は、1%の割引料率で大手企業の売掛債権

を買い取っているとすれば、それは、売掛

債権を支払う大企業の信用力があるからと

はいえず、事務コストで銀行に優位に立っ

ているからと言えるでしょう。


少なくとも、サプライチェーン・ファイナ

ンスと比較して、銀行の割引料率が高いの

は、大企業の信用力が反映されていないと

いうのは、考えにくいと言えます。


ちなみに、大企業の売掛債権が履行される

確実性は高いとはいえ、仮に、仕事を受注

した中小企業が、その仕事に瑕疵(欠陥)

があると、発注者は売掛債権の支払いを停

止(これを人的抗弁といいます)すること

があります。


したがって、売掛債権の買取は、一見、支

払う会社の信用力が高ければ確実に支払っ

てもらえるように考えられがちですが、最

終的には、買取を依頼する側の信用力が問

われるということに注意が必要です。


また、この記事では、大企業はTIBOR

東京銀行間取引金利の略称で、7月24

日の12か月金利は約0.136%)で融

資が受けられるが、中小企業は短期プライ

ムレート(1.475%)以上でしか融資

を受けることができず、低金利の恩恵を受

けていないと指摘しています。


しかし、TIBORで融資を受けられる条

件は、銀行と同等の信用格付けを持ってい

る会社が10億円単位(通常は100億円

以上)で融資を受けるなどの条件があり、

(銀行から見れば小口融資である)数百万

円~数千万円の融資を受ける中小企業と、

単純に融資金利を比較することは不適切で

しょう。


次の誤りとして、リクルートが、同社のホ

テル予約サイトの予約データをもとに審査

を行い、申し込みから最短30分で着金す

るというサービスを紹介しています。


そして、同社のファイナンス会社社長の言

葉として「決算書に頼った融資では未来予

測はできない、既存の金融機関ができない

ところを埋めている」というコメントを載

せています。


確かに、銀行は、予約サイトのデータを直

接見ることはしていませんでしたが、とは

いえ、利用者数などの状況を加味して融資

審査をすることは当然であり、前述のコメ

ントは誤解に基づくものです。


また、このサービスに関連して「決算資料

や事業計画書、資金繰表の提出も不要」と

述べていますが、これらの資料は、本来、

自社自身のために作成すべき資料であり、

銀行の都合で作成・提出を強いられている

というような言及も、前提が異なります。


文字数の制約から、記事の誤りの指摘につ

いてはここまでとしますが、記事を書いた

記者の知識不足もさることながら、フィン

テックへの過剰な期待が前面に大きく表れ

ているということを感じました。


確かに、中小企業への融資はなかなか伸び

ていませんが、日経ビジネスの記者は、既

存の銀行の力量不足がその原因と考え、そ

して、フィンテックがそれを解消してくれ

るという大きな期待を持っているのでしょ

う。


私も、銀行に改善の余地は残っていると思

いますし、銀行の融資業務に情報技術はた

くさん採り入れるべきと思っていますが、

新技術だけで改善されるほど、現在の銀行

の抱える問題は単純ではありません。


これまで他の記事でも述べてきましたが、

銀行は融資は伸ばしたいと考えているので

あって、融資を受けることができない会社

があった場合、その最大の原因は、銀行の

怠惰であるというような理解をすること

は、ますます問題の解決を遠ざけることに

なると、私は考えています。

 

 

 

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