最近、中小企業の支援策として、永久劣後ローンの活用を提言する方が何人かおられます。そのうちのひとりは、三井住友信託銀行名誉顧問の高橋温さんで、高橋さんのお考えを日本経済新聞に寄稿しておられます。(ご参考→ https://s.nikkei.com/2L3aoVS )永久劣後ローンは、仕組みとしては日本政策金融公庫の資本性ローン(融資期間は最長15か年)と同じであると思いますが、違いとしては返済期限がないということだと思います。(ご参考→ https://bit.ly/35yQ08d )
永久劣後ローンと一般の融資との違いは、毎月の返済がないこと、返済期限がないこと、返済順位が他の融資よりも劣後されることです。(「返済が劣後する」とは、会社が倒産したときなどに、永久劣後ローン以外の債務の返済が終わった後に、その残りの財産で永久劣後ローンの返済が行われるという意味で、他の融資よりも返済されない可能性が高いということでもあります)このような特徴から、永久劣後ローンは株式の発行と似ている資金調達方法ですが、契約はあくまで融資契約なので、融資をする銀行は、株主が持つような議決権を持つことはできません。
しかし、金利は、一般の株式の配当額よりも高い金利を支払うことになると思われます。(ただし、会社が赤字のときは、普通株式も配当が行われないので、永久劣後ローンも金利は払わなくてすみます)このような特徴から、実態は、銀行に優先株式(議決権がない代わりに、普通株式よりも多くの配当をもらえる株式)を引き受けてもらうような方法と言えます。
ただ、私は、この永久劣後ローンは中小企業に浸透しないと考えています。その理由は、多くの中小企業(=オーナー会社)は、株式配当を行っていないからです。もう少し詳しく説明すると、例えば、日本政策金融公庫の資本性ローンでは、融資期間が15年の場合、売上高減価償却前経常利益率が5%以上であれば、融資利率は、6.2%です。永久劣後ローンは、返済期限はないので、もう少し高くなるでしょう。
もし、中小企業でも配当をしていれば、永久劣後ローンの利息を支払うことも当然と受け止められると思いますが、ほとんどがオーナー会社である中小企業は、利益が出ても配当はしないので、6%以上の利息を支払うなら、一般の融資を受ける方がよいと考えると、私は想像します。これは、私が、永久劣後ローンに、欠陥があると考えているということではありません。中小企業にとって、様々な資金調達の方法があることは、望ましいと思います。しかし、毎月の返済がない、返済期限がないという永久劣後ローンのメリットも、利益が出ているときは金利も高いというコストに目が向いてしまい、利用しようと思わないのではないかと思います。
私が、なぜ、そう考えるのかというと、かつて、ミドルリスク・ミドルリターン(ある程度のリスクのある会社に対して、それに応じた金利で融資をすること)の需要に応えようという考え方で、新銀行東京や日本振興銀行という銀行が設立されました。しかし、2社とも、実際にはその需要がないことから、事業が行き詰りました。私は、それらの2つの銀行の考え方は的外れではないと思っているのですが、中小企業は、意外と、金利にはシビアであるという実態があります。
これは、理屈ではなく、中小企業の性質なので、理論が正しいかどうかで議論してもあまり意味がありません。私は、この永久劣後ローンに対する私の予想は外れて欲しいと思っているのですが、今後の動向でその結果が分かれば、また、それをご報告したいと思います。