鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

資本性劣後ローンとコベナンツ

[要旨]

金額や金利などの面で有利な条件で利用できる融資契約のシンジケートローンなどでは、コベナンツによって融資条件が明確にされますが、新型コロナウイルス対策資本性劣後ローンでは、コベナンツほどの条件は課されないものの、毎期、業績を報告することが条件となっています。


[本文]

融資契約のひとつに、コベナンツ(財務制限条項)つき融資というものがあります。このコベナンツつき融資は、複数の銀行が集まり、ひとつの会社に対して融資を行うシンジケートローン(協調融資)のときに利用されたりします。シンジケートローンは、大企業などが、10億円以上の多額の資金調達をするときに契約されますが、銀行もリスクを分散するなどの理由から、複数の銀行で融資を行います。

そこで、通常の銀行融資のように、1対1で契約を行うときと異なり、融資相手の会社の状況を、シンジケートローンに参加した複数の銀行が、適時に確認(モニタリング)することなどを目的として、特別の条件をつけます。それが、コベナンツであり、その具体的な内容は、毎月、業況を報告してもらう、目標とする財務指標(営業利益率、自己資本比率、有利子負債比率など)を達成する、資産などを無断で処分しないなどといった義務を、融資を受けた会社が負います。

特に、もし、目標とする財務指標を達成できなかったときなど、コベナンツで契約した義務を、融資を受けた会社が達成できなかったときは、融資利率を引き上げたり、場合によっては、直ちに融資全額を返済する義務を負うといったペナルティが課されます。ここまで書いてきた内容を見ると、コベナンツつき融資は、融資を受ける会社に不利なように感じられますが、逆に、融資条件を明確にすることで、金額、利率、担保条件などで、一般の融資より有利な条件で利用できます。端的に述べれば、銀行との約束を明確にすつことで、多額の融資を低利で受けることができるようにするということです。

ところで、8月3日から、日本政策金融公庫で新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)の取扱が始まりました。この資本性劣後ローンは、7,200万円(国民生活事業の場合)を、最長20年後に一括返済すればよく、かつ、融資額は、自己資本と同等とみなされるため、融資を受ける側にとっては、とても有利な融資です。その一方で、資本性劣後ローンを受ける条件には、「毎期の経営状況の報告等を含む特約を締結」するというものがあります。

この条件は、資本性劣後ローンの取扱が始まったばかりなので、詳しいことはまだわからないのですが、私が日本政策金融公庫に問い合わせたところ、コベナンツではないということです。したがって、目標とする利益を達成するというような目標を課されることはありませんが、「毎期の経営状況の報告」の時に、コベナンツに準じて、もし、財務状況が悪化したときは、公庫から改善の要請をされるものと思います。今回は、有利な条件で融資を受けるには、コベナンツのような条件がセットになるということを説明しました。

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