鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

劣後ローンはオーナー会社になじまない

[要旨]

形式的には株式会社であっても、オーナー会社の実態は個人商店なので、出資や配当の概念を必要とする劣後ローンの仕組みを理解する会社は少ないようです。


[本文]

以前、劣後ローンはオーナー会社にはなじまないであろうと思われるということを書きました。(ご参考→ https://bit.ly/2AmONp4 )その私の仮説が正しいかどうか、知人の、ある会社経営者の方に、劣後ローンを利用したいと思うかどうかきいて見ました。結論としては、利用しようとは思わないということです。もちろん、劣後ローンは毎月の定例返済がないこと、業績が悪い時は融資利率が低いことという利点は理解できるものの、業績がよいときは融資利率が6%以上になると見込まれるということが、劣後ローンを利用したくないと感じるようです。ただ、業績がよいときに劣後ローンの融資利率が高くなることは、それなりの理由があります。

劣後ローンは、契約上は融資契約ですが、実態は優先株式なので、業績がよくなったら、株主に対し、利益に応じた配当金が支払われるように、劣後ローンについても、それと同様の借入利息を払うということは当然です。ところが、「劣後ローンは、銀行が、自己資本とみなしてくれる」という意味を、きちんと理解するオーナー会社の経営者の方は、意外と少ないように思います。その理由はひとつだけではないですが、最も大きな理由は、いまは、債務超過の会社でも銀行から融資を受けることにあまり苦労しないので、「自己資本を厚くする」ことの大切さをあまり実感できないのだと思います。

もうひとつは、オーナー会社は、株式会社でありながら、経営者やその家族以外の人から出資をしてもらっている会社はほとんどないので、出資をしてもらうということの真の意味を理解する人は、あまりいないのだと思います。出資をしてもらうということは、ある面では、事業のリスクの一部を負ってもらうことなので、その見返りに、利益に応じた配当を払うことになります。しかし、前述のように、いまは、債務超過の会社にさえ、銀行が低利で融資をするので、オーナーとその家族以外に出資をしてもらう、すなわち、事業のリスクを分担してもらうにはそれなりの見返りが必要になるということを理解しないのでしょう。

また、オーナー会社が利益を出したとき、その一部を配当としてオーナーが受け取っても、配当をせずに会社に蓄えても、会社とオーナーの持つ資産の合計額はどちらも同じです。そこで、オーナー会社は配当をすることはほとんどないので、「利益に応じて、劣後ローンの金利も高くなる」という理屈も、理解されにくいのでしょう。すなわち、日本の多くのオーナー会社は、業績が悪くても低利で融資を受けることができているので、劣後ローンの利点が理解されにくいのだと思います。私は、劣後ローンは有効性の高い資金提供手段だと思うのですが、よいか悪いかは別として、形式的には株式会社であっても、オーナー会社の実態は個人商店なので、出資や配当の概念を必要とする劣後ローンの仕組みはなかなか理解されないと、あらためて感じています。

 

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