鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

苦労は必ずしも成功の要因ではない

[要旨]

部下を成長させるために、部下を厳しい環境に置こうとする経営者の方は少なくありませんが、部下の個性に合わせて成長させることが望ましいし、また、一定の価値観を持つ人だけを会社にそろえることも好ましくないと思われます。


[本文]

経営コンサルタントの相馬一進さんのブログを読みました。(ご参考→ https://bit.ly/2AopjHN )その記事の主旨は、相馬さんが、居酒屋和民の創業者の、渡邉美樹さんのサクセスストーリーを追ったノンフィクション、「青年社長」を読み、渡邉さんが、「苦労すれば、いつか報われる」という価値観を持っているというように感じたそうです。(ご参考→ https://amzn.to/2ZMm3AT )でも、相馬さん自身は、必ずしも、苦労が報われるとは限らないと考えている、というものです。この、苦労することと、報われることについては、私は、ある程度は相関関係があると思います。しかし、相馬さんが考えるように、苦労したから、必ず報われるとも思っていませんし、このことは感覚的なことなので、人によって感じ方もまちまちですから、いくら議論をしても、最終的な結論は出ないと思います。

ただ、今回、記事にした理由は、経営者の方の中には、「ビジネスパーソンは苦労しなければ成長しないし、かつ、苦労することは避けて通れない」という、強固な価値観を持っている方が少なくないと、私が感じているからです。そのような経営者の方は、もちろん、ご自身が相当の苦労を重ね、そして、結果として現在の地位を築いた方です。そこで、若いビジネスパーソンに対して、大きく成長して欲しいとの思いから、自分の通った道と同じ道を通った方がよいと考え、それを薦めようという気持ちを持っているということは、理解できます。ただ、その方の心の片隅に、「これまで自分はさんざん苦労してきたのだから、後から事業を始めた人には自分と同じことをしてもらわないと気がすまないし、もし、苦労もしないで成功する人がいたとしたら、そんなことは認められない」という気持ちもあるのではないかということを、感じ取ることができます。

このように書くと、私が、「部下に対して苦労を強要してはいけない」と述べようとしていると受け止められてしまうかもしれませんが、決してそうではありません。むしろ、バブル時代に会社勤務をしていた私は、(決して営業成績はよくありませんでしたが)どちらかというと、渡邉さんの価値観に近い価値観を持っています。ただ、経営者や上司は、部下に成長してもらおうとすることにはこだわるべきとは思いますが、その方法として、苦労させようとすることにこだわるべきではないと、私は考えているということです。

話が少しそれますが、以前、京都市にある国産牛ステーキ丼専門店の「佰食屋」についてご紹介したことがありました。(ご参考→ https://bit.ly/3evPRFS )同店は、1日の売上を100食に限定していることで有名ですが、同店を運営している株式会社minittsの社長の中村朱美さんは、その目的について、従業員の方の長時間労働をなくし、業績至上主義から解放された働き方をしてもらうためとお話しされておられます。私は、中村さんの考え方が100%正しいとは思いませんが、従業員の方に厳しさを求めずに、うまく事業を拡大している経営者の方もいることも事実です。

話を戻すと、経営者の方が最終的に目指すことは部下を成長させることですから、その方法として、部下に苦労させることにこだわり過ぎてしまうと、部下の中には、成長の機会を逃してしまう人も現れると、私は考えています。人によっては、厳しい環境に置くことで成長する場合もありますが、すべての人を同じ方法で育成することは、必ずしも賢明ではないでしょう。また、いわゆるモーレツ社員ばかりを揃えてしまうと、それはそれで多くの売上が得られる会社になるかもしれませんが、偏った会社になってしまうとも思います。私は、経営者の方が強い個性をもち、それを活かそうとすることはよいことだと思いますが、バランスの配慮を欠いて、会社全体として偏ってしまうような状態になってしまうことは避けなければならないと考えています。

 

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