鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

自ら安くしてしまう暇なし貧乏マインド

[要旨]

中小企業経営者の方は、売上が減ってしまうという恐怖から、採算が少ない仕事を受注してしまうことがあります。しかし、そのような仕事をしていても、忙しいだけで、利益はあまり得られないことから、いつまでもその状態から抜け出すことができなくなります。したがって、事業を発展させるためには、経営者の方が、「仕事をライバルに奪われたらどうしよう」という恐怖心を払拭し、大局的な視点から事業活動に臨むことが大切です。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、決算書は会社の成績表といわれていますが、経営者が事業に不安を感じていると、どこかにひずみが現れて、儲かりにくい体質になってしまい、それが決算書に出てしまうということについてご説明しました。これに続いて、渡辺先生は、ご自身の経験をもとに、経営者の方は恐怖心を持つことは避けなければならないということをご説明しておられます。

渡辺先生は、大学生のときにご尊父様を亡くされ、19歳でご尊父さまが経営しておられた印刷会社の経営を引き継いだご経験があるそうです。「父から後を継いだ印刷屋時代、本当に恐怖心の毎日でした。ライバルは多く、お客様からは見積書を求められ、安くしてほしい、早くしてほしい、細かい要求にも応じてほしいなど、精神的に疲れる毎日でした。それでも、もし、受注が他社に行ってしまったら、売上が減ります。会社は維持できなくなります。恐怖心から、はじめから安く見積書を出して、できるだけ受注が他社に行かないようにします。『お願いだから、何とかうちの会社にお願いします』そんなことを言い続けていました。

そうすると、どうなるか、お読みいただいているあなたのお察しの通りです。まず、忙しくなります。お客様と詳細に打ち合わせをして、見積書を計算して、外注に出す協力会社さんとの打ち合わせをして、書面を作って、その後お客様のもとに伺います。これだけでかなりの労力がかかります。ちなみに、見積書を出すという行為は1円のお金にもなりません。受注できなかった場合は、労力だけがかかって、売上はゼロになります。

そして、お客様と接して気がするので、今回がダメでも次がある、などと意味のわからないプラス思考で自分を納得させてしまいます。仮に受注できたとしても、自ら安くしていますので、手元に残る額は少なくなります。それでも、不思議と忙しくしていると、他のことを忘れられて、何となく仕事が動いた気がして、安心するのです。でも、結局のところ、お金が残らない形を自ら招いてしまうのです。ここに気づくことが大切です。恐怖心があると、自ら単価を安くしてしまいます。忙しいことで安心している自分もいます。こうしたマインドを変えていく必要があります」(28ページ)

この渡辺先生ご自身の失敗は、ほとんどの方が頭では理解できると思うのですが、理屈でないところで体が動いてしまい、値段を下げて受注してしまうという人が多いと思います。そういう私も、フリーランスになったばかりのころは、同様の失敗をした経験があります。不採算ということは分かっていても、仕事を受注できることがうれしかったり、受注できないで仕事がないよりも、仕事を受注して動いていると安心できることから、採算よりも受注を優先してしまいました。でも、後になって、時間と労力がかかった上に、まったく儲からない(というより、赤字になる)のだったら、受注しない方がよかったと思えるようになりました。

さらに、最近は、相手が採算を取ることができないことを分かっているのに、あえて発注する人とは、取引を続けてもあまりメリットがない、というよりも、デメリットの方が多いと感じるようになりました。そこで、現在は、不採算の仕事は、ちょっとやせ我慢をしても受注しないようにしています。ところで、私が銀行に勤務しているとき、資金繰が忙しいのに、自らは銀行に行かなかったり、私が訪問しても会ってもらえなかったりする経営者の方が、少なからずいました。

また、現在も、私がコンサルタントとして事業改善をお手伝いしている会社さまの中にも、自ら能動的に動こうとせず、銀行との折衝を私に任せきりにしようとする経営者の方が、何人かおられます。そういう経営者の方たちは、現場が忙しいという理由で、銀行に来なかったり、コンサルタントに資金調達を任せようとしたりしているようです。経営者の方が、そのような受動的な姿勢でも、ある程度は資金繰はなんとかなりますが、根本的な解決にはなりません。

むしろ、経営者の方が能動的に資金繰安定化にも関わる方が、事業活動全体のバランスが改善し、業績の向上が加速すると、私は考えています。でも、「現場が忙しい」という理由を金科玉条にして、経営者の方が、本来、動かなければならないことから逃げているように、私には思えます。経営者の方は、目の前の仕事が重要と感じる気持ちは理解できるのですが、でも、経営者だからこそ、長期的、大局的な視点を持つことが重要だと、私は考えています。そして、そのように経営者の方が考えていれば、不採算な仕事を受注するということもなくなると思います。

2023/3/27 No.2294