鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

現状維持は衰退の始まり

[要旨]

最近は、経営環境が厳しいことから、売上を増加させることは難しくなりつつありますが、前年並みを目指してしまうと、現状維持志向が高まってしまいます。そして、それは「現状維持は衰退の始まり」でもあるので、マンネリではなく、新しいことを展開し、新しい価値を作り続けることが重要です。さらに、これを遂行するために、経営者は、変化への恐怖を取り払わなければなりません。


[本文]

今回も、中小企業診断士の渡辺信也先生のご著書、「おたく以外にも業者ならいくらでもいるんだよ。…と言われたら-社長が無理と我慢をやめて成功を引き寄せる法則22」を拝読し、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、仕事が忙しいときに、さらに顧客から発注があり、無理してそれを受けてしまうと、新しい仕事への「種まき」ができなくなるなど、自立的な経営の妨げになるので、無理な受注は避けることが望ましいということを説明しました。

これに続いて、渡辺先生は、売上目標を前年並みとすることも避けなければならないとご説明しておられます。「私が19歳で事業を承継したとき、税理士事務所から必ず言われたのは、『前年に対して○○%です』ということでした。そのときは、前年よりも落ちているんだな、ということくらいしか感じていませんでした。税理士事務所の担当の方からも、『景気も悪くなってきているので、仕方ありませんよ』と言われているように感じました。(中略)

しかし、前年は前年です。比較することで、安心感は得られるかもしれませんが、将来のありたい姿に対し、どんな進捗がなされているかが見えません。将来の目標と、現在地を比較するようにしていくべきです。さらに問題なのが、前年並みを目指してしまうと、現状維持志向が高まってしまうことです。私は、『現状維持は衰退の始まり』と言っています。マンネリではなく、新しいことを展開し、新しい価値を作り続けることが、成長の第一歩になります。過去を見るのは、変化への恐怖心かもしれません」(35ページ)

渡辺先生のご指摘しておられる、「現状維持は衰退の始まり」という言葉は、私もその通りと感じるし、多くの方も同じように感じていると思います。さらに、渡辺先生は、「過去を見るのは、変化への恐怖心」と述べておられますが、私も、中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から、同様のことを感じています。ほとんどの経営者の方は、現状維持ではよくない、常に改善し、進歩しようとすることが大切だということは、頭では理解しておられるようです。しかし、私が、コンサルタントとして、改善策を提案しても、直接的に反対はしなくても、改善策の実践にはあまり乗り気にならない経営者の方は、決して少なくありません。

その改善策については、奇抜なものであれば、乗り気がしないと思われても仕方がないのですが、例えば、毎月、前月の月次決算を基に、計画通りに事業が進行しているか、確認することから改善活動を始めましょうという、極めて基本的なことでさえ、乗り気になってもらえないこともあります。これは、経営者の方が、心の深いところで、いまの仕事のやり方を変えたくないと考えているからだと思います。(そういう私も、身体を健康的にしなければならないと考えつつ、なかなか食生活を変えることができないでいるので、偉そうなことは言えません)

ところで、セブンイレブン元社長の鈴木敏文さんは、同社のプレイベートブランド商品に関し、次のように述べておられます。「金の食パンは、際だっておいしい。ただ、おいしいものにはもう1つ裏の意味があって、それは“飽きる”ということです。おいしいものほど続けて食べれば飽きる。だから、飽きられる前に、より味をよくしたものを投入する。顧客は味が変わったことに気づかないかもしません。飽きずにおいしいと感じてもらえればそれでいいのです」このように、同じ品質の製品を提供するだけでは、顧客が離れると、鈴木さんは考えていたようです。これは、経営者の方にとっては厳しい課題だと思いますが、常に改善に取り組まなければならないという考え方を表すひとつの例だと思います。

2023/3/29 No.2296