鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ニーズとウォンツのかけ算

[要旨]

売り込まずに売れる商品を開発するには、顧客を起点に考え、顧客のニーズ(欠乏)と、ウォンツ(欲求)を把握し、分析します。そして、いずれかが低い場合、それを高めることによって、ニーズとウォンツの両方が高い商品となり、売り込まずに売れる商品とすることができます。


[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、顧客を想像するためにマーケティングを行うことが大切ですが、このマーケティングは、販売を不要にするしくみをつくることであるのに、販売活動と混同している経営者の方が多いので、注意が必要ということについて説明しました。

鈴木さんは、これに続いて、ニーズとウォンツという考え方から、どのようにして販売を不要にするしくみをつくればよいのかということをご説明しておられます。「マーケティングは、はじめに顧客ありきです。すなわち、起点は顧客であり、そのニーズとウォンツからアプローチすることが大切です。ニーズとは、本来あるべきなのに欠けてしまっているので要る、ひとことで言えば、必要、ないしは、欠乏であり、ないと困るものです。(中略)こうした顧客のニーズを満たすことがビジネスの基本であり、広い意味で企業の社会的な責任を果たすことにもなります。

一方、ウォンツとは、必ずしも必要というわけではなくても、あったら欲しいもの、ひとことで言えば欲求です。なくても困らないが、欲しいものです。ニーズを満たすための特定の商品に対して生じるものがウォンツだと考えてもいいでしょう。顧客が求めていることを、ニーズとウォンツとに分けて、その掛け算(顧客が求めていること=ニーズ×ウォンツ)として考えるのが、マーケティングの流儀です。例えば、トイレットペーパーや石鹸といった日用品は、必要ではありますが、特に欲しいものというわけではありません。

ニーズは高いけれど、ウォンツは低いということになります。一方、ダイヤの指輪や高級スポーツカーなどの贅沢品は、特に必要ではありませんが欲しいものです。ニーズは低いけれどウォンツは高いことになります。このように、顧客が求める理由を、ニーズとウォンツのふたつに因数分解して見極めることで、どちらかが低ければ、どうすれば高くできるかを考えます。ニーズもウォンツもともに高い、必要、かつ、欲しい商品を提供できれば、よく売れることになります」(35ページ)

ニーズとウォンツの掛け合わせで成功した最近の事例は、ヤクルト1000だと思います。ヤクルトは、もともと、健康を維持するために飲まれてきたロングセラーであり、ニーズがありました。これに加えて、ヤクルト1000は、睡眠の質を高めるという効果が得られることかから、なかなか眠れない、眠りが浅いという悩みを持っていた人たちからのウォンツが高まり、ヒット商品となったようです。

ただし、繰り返しになりますが、ニーズとウォンツを同時に高める商品は、実際にはなかなかみつからなかったり、そのような商品の開発も難しいという面もあります。したがって、棚からぼたもちのように、偶然に見つかることを期待せず、日ごろから顧客の動向を注視したり、地道な商品開発を行うことが、売り込まずに売れる商品を生むことにつながる最短の方法だと、私は考えています。

2023/2/21 No.2260