鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

マーケティングとセリングは相補う関係

[要旨]

ドラッカーは、「マーケティングはセリングを不要にすること」と説明しましたが、実は、両者は相補うものと言えます。現実的には、マーケティングに注力しても、セリングが必要なことは少なくありません。また、マーケティングがしっかりしていれば、セリングの効率も高まります。


[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。鈴木さんは、「マーケティングはセリングを不要にすること」とご説明しておられましたが、実は、両者は相補うものであるともご説明しておられます。「マーケティングに対して、売ること、すなわちセリングは、初めに商品ありきです。(中略)まず、御社で売りたい商品があって、顧客に売り込んで買わせます。御社が売りたい商品は、顧客が求めているものとは限りませんから、時には、押しつけてでも買わせなくてはなりません。(中略)

また、マーケティングに注力しても、理想通りにセリングがまったく不要になることはまずないので、実際には、大なり小なりセリングが必要になります。しかし、マーケティングがしっかりできていると、顧客が求める商品を提供することができるようになっているわけですから、セリングは、大いにはかどることになります。(中略)セリングの前に、マーケティングをきちんとしておけば、求める商品を提供される顧客に喜ばれ、最もコストのかかる、従業員が担うセリングの効率も、大いに高まるということなのです。マーケティングとセリングは、相反する考え方ですが、相補う考え方でもあるのです」(38ページ)

マーケティングとセリングを不要にすること」というドラッカーの説明だけを見ると、マーケティングを行なえば、セリングは要らないものとして考えてしまいがちですが、やはり、鈴木さんがご説明しておられるように、マーケティングはセリングの効率を高める活動と考えることの方が実践的だと思います。逆に、セリングの能力が高ければ、マーケティングの成果も高まるでしょう。また、マーケティングは顧客志向、すなわち、マーケット・インの考え方ですが、これだけがすべてではないということも知られています。例えば、iPhoneは、iPodに電話機能を加えたものですが、これはマーケット・インの発想ではなく、プロダクト・アウトからの発想でできた製品です。

むしろ、iPhoneが販売され始めたころは、電話機は専用機の方が優れていると利用者に考えられていたため、もし、iPhoneを開発したアップル社が、マーケット・インの考え方だけをしていれば、iPhoneは開発されなかったと言えるでしょう。そして、現在は、携帯電話は、かつての専用機よりも、iPhoneのようなスマートフォンの方が主流になっています。もしろん、プロダクト・アウトによって開発された製品も、鈴木さんがご指摘しておられるように、マーケティングの体制が整っていれば、販売活動は効率的になりますし、アップル社は、実際に、マーケティングを上手に活用している会社です。

2023/2/22 No.2261