鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

顧客にとって個別の出会いが真実の瞬間

[要旨]

米国のP&Gでは、店頭でブランドの選択の70%が行われ、商品の購買は3~7秒で決定されており、店頭での販売促進活動が広告よりも重要であると考えているなど、顧客の意思決定の瞬間に注力する手法が行われています。そして、そのような瞬間は、「真実の瞬間」と呼ばれています。

[本文]

今回も、大阪ガスエネルギー・文化研究所の主席研究員の鈴木隆さんのご著書、「御社の商品が売れない本当の理由-『実践マーケティング』による解決」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、POS情報などのビッグデータを活用できるようになってきたものの、それでも、データを取得できる範囲は限られているので、引き続き、マーケティング活動においては、仮説と検証の繰り返しが重要であるということを説明しました。これに続いて、鈴木さんは、理論的なマーケティングではなく、実践的なマーケティングとして、「真実の瞬間」に着眼することが重要ということを述べておられます。

「最前線の現場こそが、マーケティングのターゲットである顧客との接点であり、『真実の瞬間』を生み出しているのです。真実の瞬間とは、もともとは、闘牛士が牛にとどめを刺す命がけの瞬間を指すことばとして使われていたのを、スウェーデンでサービス・マネジメントのコンサルタントをしていた、リチャード・ノーマンが、サービスの最前線で顧客と従業員が接する機会を表すことばとして、1978年に使い始めたものです。

赤字に苦しんでいたスカンジナビア航空は、『ビジネス客のための世界最高の航空会社になる』とし、観光ツアー客は相手にせず、ビジネス客だけに絞り込んで、ノーマンの協力のもと、1回あたり15秒、年間5,000万回に及ぶ真実の瞬間に着目した改革を断行し、わずか1年で立て直しに成功しました。(中略)商品サービスの提供を受ける顧客にとっては、個別のそうした出会いこそがまさに真実の瞬間であり、それがすべてなのです。2000年には、P&Gのトップ(CEO)になったラフリーが、米国では、店頭でブランドの選択の70%が行われ、商品の購買は3~7秒で決定されており、店頭こそ、広告よりも重要であることを強調しました。

これを、『第1の真実の瞬間』とし、継続して購入するかどうかが決定される家庭での使用を、『第2の真実の瞬間』としたのです。さらに、2010年には、今度は、Googleが、店頭の前段階で行われる、インターネットでの情報検索を『第0の真実の瞬間』と命名しました。2015年には、米国の消費者が商品を購入する際に、その半数近くが、Amazonの検索から始めていたそうですから、適切な指摘です。このように、真実の瞬間は、従業員が介在しない場面にも拡大されるとともに、3つの段階へと分化してきています」(192ページ)

この、顧客の意思決定にアプローチしようとする、真実の瞬間という考え方は、効果が高いと考えられます。例えば、何を買うかは決めていない状態で来店した顧客に対し、購入を促すことを狙った、ビジュアル・マーチャンダイジング(VMD)という手法は、多くの小売店で導入されています。主婦の多くは、晩ごはんの材料を買うためにスーパーマーケットに入店しますが、入店した時点では何を買うかを決めていないため、店頭のPOP広告などで買うものを決めていると言われています。

そこで、その日の目玉商品を使った献立を提案するPOP広告を貼り出すといった工夫が行われています。そして、鈴木さんは、真実の瞬間は、「従業員が介在しない場面にも拡大されるとともに、3つの段階へと分化している」とご説明しておられますが、その3点を意識したマーチャンダイジング活動を行うだけでも、効果が高くなるものと、私は考えています。

2023/3/19 No.2286