鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

商品の差別化ではなく会社の差別化

[要旨]

金沢市の紙問屋の浜田紙業では、かつて、大量受注があったときは値引きをしていましたが、それを止めると、言い値で販売できるようになっただけでなく、売上やリピート率が向上しました。これは、同社のリテールサポートが手厚いことが要因と考えられます。すなわち、価格以外のメリットを提供することが大切と考えられます。


[本文]

今回も、小阪裕司さんのご著書、「『価格上昇』時代のマーケティング-なぜ、あの会社は値上げをしても売れ続けるのか」を読んで、私が気づいたことについてご紹介します。小阪さんは、同書で、値下げの提案をやめたら売上が増加したという、石川県金沢市の紙問屋の浜田紙業の事例をご紹介しておられます。

「以前は、顧客からの大量発注があった場合、顧客から、『その分、値引きできませんか』という話がよく来ていたという。そのため、大量発注があった場合には、何も言われなくても、こちらから値引きをした見積もりを出していたという。しかし、このような活動を進めていく中で、それを止めてみると、そのことに対して何も言われることなく、こちらの言い値で話が進んだのだという。『安くすることがサービス』だと思い込んでいる人の中には、要望されていもいないのに、『○割値引きします』などと、こちらから切り出してしまう人がいる。

それはまさに、『安売りのワナ』である。『商品の差別化』による価値を生み難いのなら、『会社の差別化』により価値を生み、『価格』につなげる。そして、自ら値下げにいかない。この1年、同社ではその活動に注力してきたが、気づいた時には、今までは頻繁だった『相見積もり』が減っていた。そして、現在、浜田専務の担当分野の売上は3倍に、その後、全社に活動を広げる中で、顧客のリピート率は、取り組み前には実質1~3%だったものが、今では26%に回復している」(162ページ)

引用部分だけからは、単純に、「値引きを止めれば、言い値で売れる」というように感じられると思います。私も、この点について疑問を感じたので、浜田紙業さまのホームページを見てみました。これを見ると、顧客向けのたくさんの提案が書かれており、同社はリテールサポート(卸売会社による小売会社への事業の支援活動)が手厚いということが分かります。したがって、同社の顧客は、同社に対して値引きを求めているのではなく、同社からのサポートを求めているのではないかと思います。

ですから、もともと値引きをする必要はなかったので、値引きを止めても「言い値」で売れるようになったのでしょう。さらに、値引き提案を辞めたことは、顧客から見れば、同社がリテールサポートに注力することを宣言したと受け止められたのではないかと思います。そのことが、売上の増加やリピート率の向上につながったのだと思います。確かに、顧客の中には、価格に鋭敏な会社もあると思います。でも、価格だけで取引を決めていない会社もあり、同社は、そういった顧客の要望に深く応じることで成功した会社なのだと思います。

2023/1/22 No.2230