鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

原価積上方式の価格設定は時代遅れ

[要旨]

現在、多くの会社では、商品・製品の価格を上げることができずに苦心していますが、その要因のひとつは、原価かから販売価格を決めるという慣習が根付いているからと言えます。これに対して、原価によらず、顧客の感じる価値で販売することが望ましいと言えますが、それを実践できるようにするためには、価値を感じてもらうことができる商品や販売方法の開発を行うことが必要になります。


[本文]

ラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「『価格上昇』時代のマーケティング-なぜ、あの会社は値上げをしても売れ続けるのか」を、拝読しました。同書で、小阪さんは、なかなか価格を上げることができない要素として、原価をもとに値決めをしていることを挙げておられます。「さて、あなたは、ある品物の価格を決める際、どのような基準で決め手いるだろうか。最も一般的な価格決定の方法は、恐らく、『原価や仕入れ値から決める』というものだろう。(中略)最初に言いたいのは、このような『原価から決める』という価格の決め方は、現代にそぐわないということだ。

より正確には、原価から決めていく値付けは、『大量消費時代』のやり方だったと言った方がいいかもしれない。生産や物流を分担し、各工程でかかったコストを積み上げていく、いわば、『原価積み上げ式』の価格設定は、極めて工業的な発想だ。さらに、その背景には、各工程での積み上げを小さくして、最終売価をできるだけ低くするという考えがあったかもしれない。それは確かに理に適ってはいるが、『作り手本位』、『売り手本位』の発想である。(中略)つまり、言いたいのは、『値付けにおいて、原価から考える必要はない』ということだ。たとえ原価がものすごく安くても、お客さんにとって十二分の価値があれば、常識外れな売価を付けて構わないということだ」(94ページ)

この小阪さんの説明は、ほとんどの方が理解されると思います。日本が、長い期間、デフレが続いていたのは、前述のような発想の経営者の方が多いことも大きく影響しているろ思います。しかし、その一方で、「値上げができるくらいなら、とっくにやっている」と考える経営者の方も多いと思います。例えば、コモディティ商品なら、値上げは難しいでしょう。もし、コモディティ商品を販売しながら、値上げができず、利益も得ることができないと悩んでいるのであれば、その本当の問題は、値上げができないのではなく、コモディティ商品を売っているからと考えるべきでしょう。

経営資源の大きい会社は、あえて、低価格戦略で顧客に訴求し、利益を得ているわけですが、それに対して、中小企業が応戦しても勝つことができないのは当然です。したがって、「原価積み上げ式」ではなく、顧客から価値を認識してもらえる価格をつけることができるようにするには、何を売るかの選択をする必要があるということです。しかし、これに対しては、「そんなうまい話があれば教えて欲しい」と考える方が多いと思います。

確かに、顧客から価値を認識してもらえる価格をつけることができるようになるには、それは一朝一夕には実現できないことも事実です。残念ながら、それも事実です。でも、現在でも、高額商品を販売し、高い利益を得ている会社は、割合としては低いかもしれませんが、決して存在しないわけではありません。その、一部のうまくいっている会社になれるかどうかは、結局は、経営者の手腕によるということになるのですが、少なくとも、まず、「原価積み上げ式」を抜け出すところから着手することが必要だということは確かです。

2023/1/14 No.2222