鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

高価格のみかん猪鍋がヒット商品に

[要旨]

あるジビエ料理店は、当初、同業他社の価格と横並びで価格設定をした結果、原価率が高くなってしまいました。しかし、みかんを食べて育った猪の肉があることを知り、やや高めの価格でぼたん鍋を売り出したところ、人気商品となりました。したがって、自社商品を、同業他社の価格と横並びにするという考え方は、あまり賢明とはいえないようです。


[本文]

今回も、小阪裕司さんのご著書、「『価格上昇』時代のマーケティング-なぜ、あの会社は値上げをしても売れ続けるのか」を読んで、私が気づいたことについてご紹介します。前回は、会社が商品の価格を上げることができない要素として、原価をもとに値決めをしていることを説明しましたが、これとは別の要因として、同業他社と横並びの価格にしようとしてしまうことを、小阪さんはご指摘しておられます。その実例として、小阪さんは、値上げに成功したジビエ料理レストランの例を挙げておられます。

「同店では、以前、猪の肉を使った『ぼたん鍋』を2,800円で出していた。なぜ、2,800円かといえば、周囲の店をリサーチした結果、鍋料理の上限は、だいたい、このくらいの価格だったからだ。しかし、そのときには、価格を抑えるために、本当に使いたい素材もつかうことができず、それでもなるべくいいものを出そうとした結果、高い原価率になってしまっていた。その後、店主は、私の主宰する会で学び、商売に対する意識も変わってきていたあるとき、広島の生口島の猪の肉と出会った。これは、みかんを食べて育った猪で、その肉もほんのりみかんの味がする、いわば、『みかん猪』だ。(中略)

その肉はとてもおいしく、猟師によれば、『みかんの味がする』、ただ、肉の色が黄色っぽくなってしまうので、見栄は悪く、おいしさに比して、あまり人気がないという。その話を聞いた店主は、ぜひ、店で出したいと思い、仕入れることにした。この機会に、思い切って3,500円という値付けをしてみたが、大人気商品となった。(中略)そこで、今まで、自分が、いかに『安くなければいけない』というタガにはめられていたかに気づかされたという」(98ページ)

現在は、デフレが続いていたり、飲食店には逆風が吹いている状況だったりするものの、価格以上の価値を感じる料理であれば人気商品になる事例は珍しくありません。もちろん、小阪さんがご紹介したようなお店は、残念ながら、割合としては低いと思います。しかし、最初から、同業他社と同じような価格設定をしていては、適正な価格の商品を開発することはできません。

したがって、価格の設定は、原価から決める考え方だけでなく、同業他社と横並びにするという考え方は避けるべきと言えるでしょう。とはいえ、ミドルクラス以上の価格であっても、顧客から支持される商品を開発することは、頭で考えるほど容易ではなく、一朝一夕には実現しないということも、現実だと思います。だからこそ、繰り返しになりますが、現在は経営者の手腕が如実に成果となって現れる時代であるということも、認識しなければならないでしょう。

2023/1/15 No.2223