鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

お茶はお茶の細胞の中身を飲んでいる

[要旨]

静岡県島田市の大塚製茶では、法人顧客に価値を伝えるためのツールとして、ビジュアル中心のパンフレットや、自社製品に関する専門的な情報などを載せた資料を作成し、引き合いのあった会社に渡しています。このことにより、値下げの要請は減少し、また、価格の高い商品が売れるようになり、顧客単価が3割上昇しました。


[本文]

今回も、小阪裕司さんのご著書、「『価格上昇』時代のマーケティング-なぜ、あの会社は値上げをしても売れ続けるのか」を読んで、私が気づいたことについてご紹介します。これまで個人客向けの値上げについてご説明して来ましたが、今回は、法人向けの値上げの事例について取り上げたいと思います。そのひとつとして、小阪さんは、資料を活用して値上げに成功した、静岡県島田市の大塚製茶の事例をご紹介しておられます。

「近年、大塚製茶は、卸単価の3割アップを果たした。そこで、力を発揮したのが2つの資料で、法人顧客に価値を伝えるためのツールだ。ひとつは、ビジュアルが中心のもので、プロのカメラマンを使った本格的なものだ。もうひとつは、大塚製茶の製品を使うことが、エンドユーザーにどんな価値を提供するかを説くもので、こちらは分析や数値なども入った専門的なものだ。(中略)まず、営業において最初において最初に連絡があった企業には、ビジュアル中心のパンフレットを送る。(中略)ビジュアルなパンフレットを送ったあと、連絡があった会社には、この資料の第一弾を送る。

内容は、『そもそもお茶は、お茶の細胞の中身を飲んでいる』といった、お茶の基礎的な専門知識、大塚製茶の製造工程と、そこでのこだわりなどだ。そこから、さらに、連絡や質問などがあれば、第二弾の資料の出番となる。そこにはかなり詳しく(というかマニアックに)大塚さんがこだわる土壌や肥料のことなどが、詳細なデータとともに説明されている。(中略)こうした施策により、顧客との関係が極めて強くなったと大塚さんは言う、そして、目に見える結果として、今までは頻繁にあった値下げ要求が減り、それまでより価格の高い、より良い商品が売れるようになった。その結果、顧客単価が3割もアップしたのである」(158ページ)

この、自社製品に関する資料を作成して、法人顧客に送るという手法は、それほど複雑なものではありませんが、実践している会社は割合としては低いと、私も感じています。やはり、資料の作成は、最初は、やや労力がかかるところがあり、作成した方がよいことは分かっていても、なかなか着手できないでいる会社が多いのではないでしょうか。でも、大塚製茶では、デフレの時代にあって、客単価が3割上昇したということですから、資料の作成、送付は実践する価値があるでしょう。

ちなみに、私が銀行で勤務していた時も、融資取引のある会社の中で、自社製品の資料を詳細に作成している会社は少数派でした。多分、10%もなかったと思います。しかし、自社製品の資料がある会社は、銀行から見ても評価が高く、金利などの取引条件も有利になる傾向がありました。銀行は、融資相手の会社の特徴を知りたいと考えている訳ですが、普段の経営者との面談からだけでは、なかなかすべてを把握することは難しいので、文字や写真などで作成された資料があれば、銀行もその会社をより高く評価することができるようになります。(もちろん、自社製品の資料の有無だけで融資の可否が判断されるわけではありませんが…)

これは、多くの会社経営者の方に共通することですが、取引先や銀行は、自社のことを理解してくれていると考えがちですが、実は、相手は自分が考えているほど、自社のことを理解しているとは限りません。ですから、文字や写真などの資料を作成しておくことの効果は、経営者の方が思っているよりも高いのではないかと、私は考えています。

2023/1/21 No.2229