[要旨]
味の素冷凍食品は、「冷凍餃子は手抜き」というツイッターの投稿に対し、「手抜きではなく“手間抜き”」と投稿したことから、それが多くの共感を呼びました。このように、ナラティブの形成は、会社自身と顧客の双方が参加できる「余白」が重要な要素になっているということができます。
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今回も、前回に引き続き、PRストラテジストの本田哲也さんのご著書、「ナラティブカンパニー-企業を変革する『物語』の力」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。本田さんは、ナラティブカンパニーのナラティブに、顧客が「参加できる余白」を作ることで、顧客といっしょにナラティブを「共創」できるようになると説明しています。そして、その「余白」の重要性を、味の素冷凍食品の事例で説明しておられます。
「ことの発端は、2020年8月4日に、ツイッターに投稿された、ある女性のつぶやきだった。疲れてつらかったために、夕食に冷凍餃子を調理して出したところ、子どもは喜んだが、夫が、『これは冷凍食品なので、手抜きの料理だよ』と言ったという内容のものだった。このツイートには、さまざまな同情の声が集まった。
味の素冷凍食品株式会社の公式ツイッターアカウントもすぐに反応し、次のような投稿をした。『冷凍餃子を使うことは、手抜きではなく、“手間抜き”です』『冷凍食品を使うことで生まれた時間を、子どもに向き合うなど、有意義なことに使ってほしい』(中略)思いを込めた公式アカウントの投稿には、44万いいね!がつき、『冷凍餃子』がツイッターのトレンドに入るほどの反響を呼んだ。(中略)
『冷凍餃子は“手間抜き”です』ツイートのあと、若干のネガティブな反応も出たが、おおむね好意的に受け止められ、(報道機関からの)取材対応を続けることで、好意と賛同の声を増幅させていった。このような活動を地道に続けた結果、8月4日の発端のツイートから約1か月で、『手間抜きナラティブ』が広がっていき、その中の登場人物のひとりとしての、『味の素冷凍食品の餃子』という状況を創り出すことができた」(133ページ)
ちなみに、味の素冷凍食品の餃子は、実際には144の工程を経て作られており、家で作る餃子より、冷凍食品の方が手間がかかっていると言えます。かつては、家で作る餃子の方が、冷凍食品の餃子よりも手間がかかっていたのかもしれませんが、現在は、餃子としての完成度は、冷凍食品の方が高いと考えることができます。
ただ、家での工程が、フライパンで焼くだけなので、いまでも“手抜き”と感じてしまう人が多いのでしょう。しかし、前述のツイッターへの投稿によって、味の素冷凍食品は、その“手抜き”という考え方を、“手間抜き”という考え方に変えることができたと言えます。すなわち、顧客といっしょにナラティブを「共創」したと言えるでしょう。
2023/1/13 No.2221