鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ブラックフライデーを休業日にする意味

[要旨]

米国のアウトドア用品販売店のREIは、書き入れ時のブラックフライデーに、「お店に来るのではなく、アウトドアに出かけて、自然に接して欲しい」というメッセージとともに、全店を休業し、また、すべての従業員に有給休暇を与えました。このことは、自社の収益機会を減らすことになりますが、アウトドアライフを尊重する同社の一貫性が高く評価されることになりました。


[本文]

今回も、前回に引き続き、PRストラテジストの本田哲也さんのご著書、「ナラティブカンパニー-企業を変革する『物語』の力」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。本田さんは、ナラティブカンパニーのナラティブな活動の対象の範囲は、顧客だけでなく、従業員を含めたステークホルダーまで含めることが重要だと説明しておられます。「米国には、『ブラックフライデー』と呼ばれる日がある。感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日であるブラックフライデーは、国民的な『セールの日』であり、小売業界にとっては最大の書き入れ時だ。

このブラックフライデーに、なんと、『150を超える全店舗を休業する』と発表して話題になったのが、米国有数のアウトドアブランド、REI社だ。そもそも、近年のブラックフライデーには、大勢の客が並んだり店舗に押し寄せたりすることから、否定的な世論もあった。『お店に来るのではなく、アウトドアに出かけて、自然に接して欲しい』というメッセージは、大きな共感を持って受け入れられ、REI社はその株を上げた。

これぞ素晴らしいナラティブであるが、さらに注目したいのは、その『範囲』だ。REI社は、アルバイトを含むおよそ1万3,000人の全社員に有給休暇を与え、まったく同じメッセージ-仕事に来なくていいから、家族や愛する人とアウトドアに出かけてください-を、従業員にも体現した。つまり、REI社の『物語的な構造』には、ユーザーやアウトドア業界だけでなく、重要なステークホルダーである自社従業員も巻き込まれた格好だ。インターナルコミュニケーションとしても秀逸であり、ナラティブの範囲がよく考えられた実例だろう」(125ページ)

営利活動を行っている会社であれば、繁忙日に休業したり、さらに、その日に、すべての従業員に対して有休休暇を与えたりするということは、一般的には考えにくいことです。しかし、アウトドアライフを楽しんでもらうことを会社の事業活動の目的としているREI社は、直接的に利益を得る活動よりも、自社が目指すところに向かうための、一貫性のある活動を優先しました。そして、それを実践した点が共感を呼び、同社の評価を高める結果になりました。

このことは、繰り返しになりますが、同社の顧客からだけでなく、従業員からも同社に対する忠誠度が高めてもらえることになるでしょう。20世紀までは、企業の社会的責任は、あまり意識されることはありませんでしたが、現在は、それは強く意識される時代になっています。例えば、昨年、原宿に、海外の格安ブランドの衣料品店が出店しましたが、その会社の衣服は、過酷な労働環境のもと、低賃金で働いている労働者によってつくられていることから、同店の商品は買わないようにしようという動きが起こりました。

すなわち、現在は、社会的に問題がある会社は、単に、価格が安いというだけでは評価されず、会社の在り方から評価されなけれなければならいということが、よくわかる例だと思います。繰り返しになりますが、現在は、自社だけが儲かりさえすればよいという姿勢で事業活動を行う会社は評価されないだけでなく、経営理念も崇高なものを掲げるだけでなく、それがステークホルダーに、目に見える状態で活動もしなければならない時代だと言えるでしょう。

2023/1/12 No.2220