[要旨]
阪神佐藤興産の社長の佐藤さんは、従業員の採用面接のときに、応募してきた学生に対して、自社の現預金が、月商の1億円の9倍もあるので、つぶれることはないとご説明しているそうです。また、月次決算書も見せて、クリアな会社という印象を持ってもらい、自社に対する印象を高めているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、阪神佐藤興産の社長の佐藤さんは、3か月ごとに、取引銀行に業績を報告に行っているそうですが、これは、佐藤さんが、「お金を借りた人が、貸してくれた人の信用を得るには、お金の使い道をきちんと報告する必要がある」と考えているからであり、これを実践することで、同社は、無担保無保証で融資を受けることができる要因のひとつとなっているということを説明しました。
これに続いて、佐藤さんは、従業員の採用面接で、応募してきた学生に対し、自社の現預金残高が月商の9倍あるということを説明しているということを述べておられます。「『当社はつぶれない経営を行なっています』と宣言しても、若い人、特に就職活動をしている学生は、口には出さなくても、『そうは言っても、大手の方が安全だ、中小企業って、すぐにつぶれそう』と思っています。
例えば、面接で、学生から、『なぜ、つぶれない経営と言えるんですか?』と質問を受けた時、私は、まず、現預金の月商倍率の話をします。私が、『うちは、月商がだいたい1億円やけど、商売やっていくのに、手元にお金がいくらあったら安心と思う?』と聞くと、学生はお金の桁が大きすぎて、答えられません。『(学生)毎月1億円の売上だから、1憶円ですか?』『(私)そう思うやろ、普通は月商の3倍あったら、まず、つぶれないと言われているよ』
『(学生)じゃあ、3億円?』『(私)んー、うちはその3倍はあるよ』学生は絶句します。そこで、すかさず、こう言います。『じゃあ、ホントかどうか、今度、一緒に銀行の支店長さんに会いに行くか?』これで勝負あった!さらに言うと、月次の決算書類を見せて、学生に数字でチェックまでさせます。『超クリアな会社という印象です』と、学生に言われています」
「つぶれるか、つぶれないか」という点については、手元現預金の額で明確に分かります。「利益は意見、現金は事実」という言葉が示す通り、現預金残高はごまかしようがないので、銀行に行って支店長に預金残高を教えてもらえたら、同社に対する学生の印象は大きくなるでしょう。ところで、私は、預金額もインパクトがあると思いますが、それと同じくらいインパクトがあることは、会社の決算書類を、実際に勤めてくれるかどうか分からない学生に見せることです。
普通の中小企業では、部外者に決算書類を見せることはないでしょう。でも、決算書類を見せてもらった学生は、「超クリアな会社という印象」を持ってもらうことができる、すなわち、「危ない会社ではない」と感じてもらうことができるのだと思います。ちなみに、滋賀県大津市にある温泉旅館の株式会社湯元舘さんも、決算書を公開しています。
同社の針谷さんによれば、温泉旅館業は、就職希望者にとってあまりよい印象を持ってもらっていないので、自社はよい会社であることを理解してもらいたいことと、温泉旅館業の社会的な評価を高めたいことから、決算書を公表しているとのことです。とはいえ、中小企業の多くは、直ちに、自社の決算書を公開することは難しいことも現実だと思います。ただ、透明性を高めることは、自社の信頼を高めることになり、就職希望者を増やすことにもなることから、将来的に公開することをご検討いただきたいと思っています。
2023/12/25 No.2567