[要旨]
阪神佐藤興産は、9つの銀行と取引をしていますが、銀行から融資取引のセールスを受けた時に、融資を契約するバーターとして、顧客の紹介を依頼するそうです。しかも、銀行から紹介された顧客とは、直ちに社長と交渉できる上に、銀行のお墨付きのある信頼できる取引先でもあるというメリットがあるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、阪神佐藤興産は、毎年、経営計画発表会を開き、従業員だけでなく、取引金融機関の職員にも聞いてもらっているそうですが、会社のすべての状況を、社長自らが、全従業員の前で説明することから、金融機関からの信頼を得ることができ、無担保無保証で融資を受けているということを説明しました。
これに続いて、佐藤さんは、取引金融機関から、顧客を紹介してもらっているということを述べておられます。「現在、よくおつきあいをしてる金融機関は9行です。正直なところ、1~2行しか取引のなかった先代の頃と比べると、隔世の感があり、こんなに多くの銀行と取引することは考えてもいませんでした。銀行が当社に対して新たに融資したいとご提案されたときに、『お受けしますので、お客様を紹介してもらえませんか』と、お願いします。
自社で私が新規開拓に行っても(中略)、6回は“なしのつぶて”で、7回目になって、初めて商談らしいことができることが多いもの。このとき、銀行の紹介を通じると、最初の段階から、先方の社長にお会いして商談ができることもあります。相手も、お金のある会社が多いですから、取りっぱぐれの心配などする必要はなく、しかも、社長に改修工事の可否を即決していただけます。こんなに効率のよいビジネスは、ありません。資金的な観点で見ても、銀行からの紹介を通じて、2,500万円の改修工事を受注すれば、20%の粗利益率だと、500万円の利益になります。
一方で、銀行から1億円を書入れ、1%の金利と仮定すれば、1年で100万円、5年で500万円の金利になります。この支払金利は、最終的に、経費として、利益から引けます。工事の利益が金利に消えるとしても、当社としては、タダ(金利ゼロ)で1億円の資金を用意できたことになる。この資金が新たな取引の拡大にもつながります。同じ仕事をするなら、お金を借りて行った方が、より事業の継続・拡大にもつながるのです」
前回、経営計画発表会を取引銀行に聞いてもらうことで、信頼を得ることができると述べましたが、さらに、今回の引用部分のように、取引先を紹介してもらうこともできます。佐藤さんは、これについて、自らの足で新たな取引先を得るよりも効率的であり、さらに、代金回収の心配もないと述べておられます。銀行は、融資相手の会社については、立場上、財務面を中心として、さまざまな情報を持っています。
そして、もし、商取引の仲介をすることになれば、問題が発生する懸念がある会社は紹介しないでしょう。これを言い換えれば、銀行に紹介される会社は、銀行から「お墨付き」を受けた会社であり、安心して取引できる会社ということになります。さらに、銀行は、一般的な中小企業(不特定多数の顧客と取引をしている小売業を除く)と比較して、多くの取引先と融資取引を持っています。
したがって、ある会社から「お客様を紹介して欲しい」と依頼されると、紹介できそうな会社を容易に見つけることができます。中小企業経営者の方の中には、銀行訪問を避けたいと考えている経営者の方も少なくないと思いますが、佐藤さんのように、銀行を訪問することで、効率的に営業活動ができると考えれば、銀行に積極的に訪問できるようになると思います。
2023/12/22 No.2564