鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

利益は仕事と製品の品質に比例する

[要旨]

パタゴニアでは、財務は各種事業を支える基礎ではなく、他部門を補う存在だと考えています。これは、製品の品質を高めることで利益が得られるという考え方であり、同社ではロイヤルカスタマーを増やすことで利益を増やしています。ただし、これを実践するには、ロイヤルカスタマーを得ることができる強みが必要になります。


[本文]

前回に引き続き、パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードさんのご著書、「社員をサーフィンに行かせよう-パタゴニア経営のすべて」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、同社では、利益は顧客からの信任票と考え、顧客から支持を得られるための活動を忠実に実践しているということを説明しました。今回は、シュイナードさんが財務会計に対してどう向き合っているのかについて説明します。

「世の中には、犬で言えば、尻尾が身体を振りまわすがごとく、財務が経営を振り回している会社が多いが、我々は、環境保護活動に対する寄付と、100年先も存続している会社でありたいという願望とを、うまくバランスさせようとがんばっている。我々の理念では、財務は各種事業を支える基礎ではなく、他部門を補う存在だと考えている。

我々の場合、利益は仕事と製品の品質に比例する。対して質を重視しない会社は、見境なくコストを削減する。需要を無理やり引き上げて売りさばく、従業員をこき使うなどの方法で、利益を増やそうとする。(中略)我々の場合、ロイヤルカスタマーと呼ばれる得意客への販売が最も多くの利益を生んでいる。特に売ろうとしなくても、ロイヤルカスタマーなら新製品を買ってくれるし、それを友だちに薦めてくれる。ロイヤルカスタマー向けの販売は、普通の顧客向けに比べて6倍から8倍もの利益をもたらしてくれるのだ。(中略)

最近、事業の成功と相関が最も高いのは、価格ではなく品質であることがはっきりしてきた。製品やサービスの質が高い企業は、低い企業に比べて、投資収益率が平均で12倍にも達しているとのことだ。我々の場合、事業の進め方に悩んだら、必ずと言っていいほど、質を高める方向に進むのが正解となる。地球にとって正しいことだからと選んだ道を進むと、そのうち、事業にとってもプラスとなるのだ」(253ページ)

シュイナードさんはロイヤルカスタマーについて述べておられますが、それは今回の本旨ではないので詳細な説明は割愛しますが、財務会計を重視してしまうと、短期的な業績に目が向きがちなので、長期的な視点からロイヤルカスタマーを増やすことで、業績を高めているということです。この考え方は、バランススコアカード(BSC)に通じる考え方です。

すなわち、シュイナードさんの考え方を、BSCの4つの視点にあてはめてみると、「学習と成長の視点:登山を好きで、登山用品に関心の高い従業員を採用し、育成する」→「内部プロセスの視点:登山者の視点から評価を得られる質の高い製品を開発する」→「顧客の視点:質の高い製品を販売することで満足してもらい、また、知人にも自社製品を薦めてもらえるようにする」→「財務の視点:利益率の高い顧客への売上を増やし、効率的に収益を得る」ということになるでしょう。

BSCは、1990年代に登場した考え方ですから、恐らく、シュイナードさんは、BSCを知らずに、自社の事業をよいものとするためにはどうすればよいかを考えて行くうちに、結果として、BSCと同様の考え方に行きついたのではないかと思います。とはいえ、私は、BSCの考え方に従って事業活動に臨めば事業が成功するとは考えていません。BSCは、目的ではなく、ツールに過ぎないのです。

BSCを活用して成功するには、パタゴニアの例で言えば、ロイヤルカスタマーを増やすことができるだけの強みを持つ必要があります。これを言い換えれば、強みがない会社は、事業の競争力が低いので、日々の売上だけに追い回されることになるということになるでしょう。したがって、目先の損得に振りまわされずに、事業に専念することによって「お金は後からついてくる」という事業活動をするには、繰り返しになりますが、強みのある事業を行うことが大切ということです。

2022/10/9 No.2125