[要旨]
財務会計では、取引が起きなければ何も記録されませんが、管理会計では、受注を逃した場合など、収益機会を失ったとき、それによって得られたであろう収益相当額の機会原価が発生したととらえます。
[本文]
前回までは、管理会計の損益分岐点分析について述べてきましたが、今回は、管理会計の考え方である、機会原価について述べたいと思います。機会原価は、管理会計の中でも、最も管理会計らしい考え方だと私は思っています。というのも、財務会計は、起きた事実でなければ記録できませんが、機会原価は、起きていないことについて、コストがかかったと考えるからです。具体的には、例えば、B社が、既製製品ではない、特別注文製品の引き合い1,000万円(うち、見込の原価率(≒変動費比率)は80%)の打診があったとします。
しかし、同社では、納期までの同社の製造ラインの稼働率が、100%に近かったので、この受注を断ったとします。この時、財務会計は、会計上の取引は発生していないので、何も記録されません。でも、管理会計の考え方では、特別注文製品の引き合いを受ければ得られたであろう利益、200万円(=受注額1,000万円-(1-変動費比率80%))を、得られる機会を失ったと考え、機会原価200万円が発生したと考えます。
ここまでの説明では、ピンと来ない方が多いかもしれないので、もう少し解説を続けます。B社の製造ラインの稼働率は、100%近くだったわけですが、仮に、一部の製造ラインを、特別注文製品に振り向けたとします。そのとき、特別注文製品に振り向けた製造ラインで、既存製品を製造していた場合に得られていた利益は、100万円だったとします。
しかし、それを特別注文製品に振り向けたことによって、既存製品を製造しないことによる100万円の機会原価を発生させた代わりに、特別注文製品の製造をしないことによる200万円の機会原価の発生を防ぐことができた、すなわち、機会原価の発生額を100万円減少させたと考えます。実際には、この例のような簡単な例はあまりありませんが、経営者の方は、常に機会原価が発生していないか、注意しながら事業に臨むことが、利益を最大化させる観点から、とても大切であると言えます。