[要旨]
カルビーは、かつて低収益の状況が続いていましたが、松本晃氏がトップに就任し、変動費を中心とした製造原価の削減を実施しました。このような改善策は「理詰め」のアプローチによるものであり、決して、「マジック」を使った改善策ではありません。
[本文]
今回も、遠藤功さんのご著書、「生きている会社、死んでいる会社-『創造的新陳代謝』を生み出す10の基本原則」を読み、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。遠藤さんは、食品メーカーのカルビーの事業再生の事例について、同書の中でご紹介しておられます。「7期連続で増収増益を続け、食品業界における高収益企業である同社だが、現会長兼CEOである松本晃氏が経営トップに就任したときには、低収益で喘いでいた。『シェアがこんなに高いのに、この会社はなぜ儲からないのか』という松本氏の素朴な疑問から再生は始まった。
各種の経営数字を丹念に見ていくと、その原因が浮き彫りになってきた。最大の要因は、製造原価の高さにあった。当時の製造原価率は65%で、競合他社と比べて13%も高かったのだ。その要因は、全国に17か所ある工場の稼働率が、平均で60%しかなかったことによる。つまり、工場をつくりすぎて、供給過剰に陥り、固定費がかさみ、儲からない構造になっていた。(中略)松本氏は、まず変動費の削減に着手した。(中略)そして、変動費の削減によって製造原価が下がれば、それを商品価格に反映させ、消費者に還元した。
すると、販売量が増え、生産量も拡大し、工場の稼働率は大幅に改善し、現在の稼働率は平均90%以上にまで高まっている。65%だった製造原価率は55%にまで下がり、その差分はそのまま営業利益率の向上に結びついている。こうした事実をもとにした『理詰め』のアプローチによって、カルビーは12%近い営業利益率を上げる高収益企業へと変貌した。カルビーの再生に、『マジック』はない」(183ページ)
遠藤さんは、事業の改善には、「理詰め」が大切とご説明しておられます。カルビーの場合、変動費を削減し、製造原価を下げるという、真正面からの事業改善策を実践していますが、これは、遠藤さんのいう「理詰め」をした改善策であったことが成功の要因と考えることができます。しかし、事業の改善には、何か奇をてらうような手法が必要だと考えている経営者の方も少なくないと思います。
また、私がこれまで事業改善のお手伝いをしてきた経験では、中には、「まともなことをしても、事業改善は期待できないから…」という理由で、精緻な計画を立てずに、経営者の勘による場当たり的な「改善策」を実行して、失敗する例を見てきました。もちろん、精緻な計画を立てても失敗する可能性はあるし、場当たり的な改善策を実行して成功する可能性もあります。でも、事前に「理詰め」をした計画に基づく改善策の方が、圧倒的に成功する確率は高くなります。私も、遠藤さんの指摘するように、「再生に『マジック』はない」と考えることが大切だと思います。
2022/7/27 No.2051