[要旨]
日本では、組織の構成員の和を乱さないようにすることが優先されることがしばしば見らせます。しかし、その度合いが大き過ぎると、組織の目的がなかなか達成できなくなり、そのことは、組織自体の存在の意味をなくしてしまいます。したがって、組織の成果を強く意識することが、組織の構成員、特に、リーダーに求められます。
[本文]
前回に引き続き、今回も、伊賀泰代さんのご著書、「採用基準-地頭より論理的思考力より大切なもの」を読んで、私が気づいたことについて書きたいと思います。前回、伊賀さんは、「本来のリーダーとは、『チームの使命を達成するために必要なことをやる人』である」と説明していることをご紹介しました。これについて、伊賀さんは、別のところでさらに深く説明しています。
「(乗っていた船が沈没しようとしているとき)大海で自分が乗る救命ボートを選ぶ際は、命さえ助けてくれるなら、漕ぎ手の性格が強引で、人当たりが悪くても、無口で自分とは合わない性格であっても、私たちは、そんなことは気にしないはずです。そうではなく、『救助が得られるまで、乗客を無事に生かしてくれる、導いてくれる』という成果が達成できる人かどうか、という点のみを基準に漕ぎ手を選ぶでしょう。
海の上を漂流して助けを待つ間には、数多くの状況判断や、乗員の統率が必要になります。時には厳しい判断やリスクをとった決断もできる、真のリーダーを選ばないと、命が助かりません」この伊賀さんのご指摘は、よく納得できるものなのですが、日本では、組織の和を乱さない、波風を立てないということが優先されがちです。ところで、組織論の研究の第一人者のバーナードは、組織の3要素として、共通目的、協働意欲、コミュニケーションを挙げていることは、広く知られています。
この、3要素の中に共通目的が入っている意味は、組織活動で成果が出なければ、組織が維持できなくなるということです。前述の救命ボートの例で言えば、仮に、何らかの理由で、ボートに乗っている人たちの命が助かるという目的が達成されないことが分かったとすれば、ボートに乗っている人たちは、ボートに乗っている他の人たちと協力して活動しようとしなくなるということは、すぐに理解できると思います。
ですから、組織的な活動が維持されるためにも、組織の3要素のひとつである、共通目的が達成されるようにすることが、リーダーに求められているということになります。しかし、救命ボートに乗っている人のだれもが、あまりリーダーシップを意識せず、他の人に嫌われたくないということを優先し、命が助かるための活動を後まわしにすれば、組織としての活動も行われなくなり、命が助からなくなる確率も高まることになるでしょう。
とはいえ、リーダーが、組織の構成員の気持ちを無視し、どんなに嫌われるようなことをしてもいいのかというと、やは共通目的を達成するために、組織の構成員に対して励ますことをすることの方が、より大きな成果につながるでしょう。でも、リーダーが、単に、組織の和を優先するだけなのようであれば、なかなか成果が得られないことになってしまいます。伊賀さんは、日本の会社では、成果を得ようとすることがリーダーシップであるということが、あまり理解されていないと指摘しておられますが、私も同様のことを感じることがあります。
2022/6/20 No.2014