鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

ROEと出資の意義

[要旨]

上場会社は、一般的に、ROEが5%以上となる業績を求められています。これは、投資家がリスクを負っていることの見返りであり、合理的と言えます。中小企業の場合、その多くは経営者が株主を兼ねているため、株主が経営者の責任を追及することはほとんどありませんが、経済活動を営む以上、同様の業績を得ることに意義があると思われます。


[本文]

今回も、早稲田大学ビジネススクールの西山茂教授のご著書、「『専門家』以外の人のための決算書&ファイナンスの教科書」から、私が気づいた点について述べたいと思います。前回は、投資活動や財務活動から得られるキャッシュフロー(CF)の額には限界があるので、恒常的に営業活動でCFが増加するよう、経営者の方は管理しなければならないということを説明しました。今回は、ROEについて説明します。

ROEは、Return On Equityの略語で、日本語では、自己資本利益率です。計算式は、ROE=当期純利益÷自己資本×100(%)であり、株主の提供している資金額に対する利益額の割合を示しています。そして、三井住友信託銀行の調査によれば、「上場会社の37%が、ROEを財務目標として掲げており、その目標は、概ね、8%~15%程度」だそうです。

というのも、株主総会における議決権行使の助言をしている会社である、ISS(Institutional Shareholder Services)は、「ROEが5%未満で改善傾向にない会社に対しては、経営トップの選任案件に反対を推奨するという基準を設定」していることなどが影響しているそうです。ただ、ISSの基準がなくても、感覚的に、ROEはある程度の水準が求められるということは理解できると思います。なぜなら、株主はリスクを負いながら出資をしているわけですから、それに見合った利益は期待することは当然だからです。ところで、中小企業、特にオーナー会社では、このROEはあまり意識されることはないようです。

その理由のひとつは、オーナー会社の株主は経営者自身でもあるので、自分が自分に対して経営責任を問うということはないからです。また、オーナー会社の経営者の方は、多くの利益を求める前に、自分がやりたい仕事をしたいという目的がある場合もあるので、大幅な赤字にならず、事業を継続できていれば、それだけで満足できるということもあるでしょう。それはそれで理解できなくもないのですが、私は、中小企業であっても、ある程度のROA、具体的には5%以上は求めるべきではないかと思っています。

その理由もひとつだけではないですが、最も大きい理由として私が考えるものは、せっかく自分が経営している会社に出資するよりも、上場会社に投資する方が利益が得られることになるとすれば、自らが会社を経営する意義があまりなくなってしまうと考えられるからです。もちろん、繰り返しになりますが、出資をする側の出資をしようとする要因は、配当を得ることだけではありませんが、そもそも会社はお金の論理で動くものです。経済活動に積極的に関わる役割である経営者として、期待される利益を得ようとすることは基本であると、私は考えています。

2022/4/29 No.1962