[要旨]
事業活動では、よりよい成果を得ようという意欲を持ちながら、従業員が勘と経験で判断をしていることは珍しくありません。しかし、経営者としては、そのような勘と経験に頼らず、KPIを使って、暗黙知を形式知にする、すなわち、仕組づくりをすることで、より効率的な活動が可能になることを目指すことが大切です。
[本文]
前回に続き、今回も、アマゾンジャパンのOBで、経営コンサルタントの佐藤将之さんのご著書、「amazonのすごい会議:ジェフ・ベゾスが生んだマネジメントの技法」から、私が注目したことについて説明したいと思います。今回は、アマゾンのしくみづくりについて述べたいと思います。佐藤さんによれば、創業者のジェフ・ベソスは、「Good intention does not work , only mechanism works.」と述べているそうです。
これは、直訳すれば、「善意は機能せず、仕組だけが機能する」ですが、佐藤さんは、「善意だけでは十分ではない、仕組づくりが重要だ」と意訳しておられます。ここでいう善意とは、従業員がよい仕事をしようという意思のことを指すようです。その善意が問題ではないのですが、経営者としては、それに頼らずに、きちんと仕事がまわる仕組をつくらなければならないということが、ベソスの考えのようです。
では、仕組づくりとはどのようなことかというと、佐藤さんは、ある会社のコンサルティングをしているとき、その会社の購買担当者が、商品の発注業務を、勘と経験で行っていたそうです。観と経験で、適切な発注ができていればよいのですが、これについて、佐藤さんは、その購買担当者がいなければ、他の人は発注業務ができず、発注業務が属人化している状態になっていると指摘しています。
そして、適切な発注量を、KPIを使って明確にしていれば、特定の購買担当者ではなく、経験の浅い他の人でも発注業務ができるようになるし、さらに、勘と経験ではなく、数値に裏付けられた、適切な量の発注ができるようになると、佐藤さんは述べておられます。これが、ベソスのいう「仕組づくり」と言えるでしょう。このように、KPIを活用すれば、従業員が「善意」で仕事をしなくてもすむ、すなわち、仕事の属人化を排除することが可能となり、その結果、「仕組」で仕事ができるようにするという効果が得られます。
やや、話が飛躍するように感じられるかもしれませんが、「善意ではなく仕組」という考え方は、「暗黙知を形式知にする」という考え方に通じると思います。仕事をするうえでのノウハウが、特定の人だけが持っているよりも、社内全員に共有できれば、より効率的な活動ができるようになることは明らかでしょう。繰り返しになりますが、KPIは、このような観点からも、有用なツールになると、改めて感じました。
2022/2/13 No.1887